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あなたに触れられたくなかった。あなたに話しかけられたくなかった。私はあなたと関わりたくなかった。一定の、距離を私とあなたに置いて接したかった。

私と、世話好きなのかお節介なのか、常にとは言わないけれど誰かに頼られたりしている、母性愛みたいなものに優れたあなたが同じクラスでずっと、1度も、何も言葉を交わさないことは有り得ないことに等しいことであることは、わかっているつもりで、だけどその優しさに触れてしまったらもうダメで、そこからもう抜け出せない気がして、私はあなたをずっと避けていた。あなたも私があなたを避けていることにやっぱりちゃんと気付いていて、だからといって突き放して物事を考えるようなことはしなかった。それがまた私にとっては苦くって、ずっとずっと避けていた。

3学期、もうあと数ヶ月といわず、もうあと何回かしか学校に来なくてよくなるような、受験という時期に登校する学校はどこか懐かしい感じを覚えて、私は早起きをして学校に行った。教室には勿論人は誰もいなくて、前に教室に来たのはいつだったかなんて、そんなくらいの懐かしい感覚に襲われた。1人しかいない教室はどこかいつもより大きくて、広く感 じて、そんななんとも言えない感覚に、私は胸がチクリと痛んだ。もうこの教室には来なくなるのかなんて感傷的になって自分の机に伏せていたら、クラスのドアが開かれる音が耳に入ってきた。もしかしたら、もしかしたらあなたかもしれないという微かな緊張と淡い期待が伏せた私に覆い被さってくる。恐る恐る顔を上げてみると、誰もないくて、私は一気に脱力してそのまま机に伏せ直す。誰だろうか、ドアを開けたのは、誰なんだろうか、あなたではないのかという少しの、ほんの少しだけの思いは完全に消えることはなかった。


『珍しいな、俺より早い奴がいるなんて』


誰もいないと、そう思っていたのに声がしたのは後ろからだった。何もかもを優しく包み込んでしまうような、全てを預けてしまいそうになるような、あなたの声でした。


『なんだよ、そんな驚いた顔、しなくてもいいだろ』


振り返って見た私の顔はきっと凄く不細工だったに違いないです。だってまさかあなただとは思わなかったんだから(そうだといいなとは思っていたけど)。


『そう言えば俺、お前と話すの初めてだな』


優しく、笑う人だと思った。純粋だからこその笑顔。いつもあなたが周りにいる人たちに向 けて微笑んでいるのを見ていたけど、自分に向けられるなんて、思っても見なかった。なんだか、やっぱりあったかくって、引き込まれてしまう。その優しさが凄く、凄く愛しい。


『俺ばっかしゃべってんじゃねえか、なんかしゃべれ』

「…好きよ、あなたが好き」



それはまるで魔法のような
(あなたのその優しさに溺れたいの)



2008/01/15 (C)mika. 






 


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