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嗚呼、何故こんなにも私はあなたが好きなんだろうかと心の中で深く問い掛けると、それはなるようになっているからですと答えが返ってくる。つまり何故とかいう理由は後からついてくる、なんてものでもなくて、好きなことに理由なんていらないんだっていう、ありがちなひっくるめ方だ。だけど至って単純に出来ている私はそれに納得して、終わり。だって好きなことに理由なんていらないでしょうと口から偉そうなことを発するようになる。でも実際に考えて、私の好きな人について、どうして好きになったの?なんて低脳な質問をされたならば、格好良くかつ可愛らしく「ハンカチを落としてしまって拾ってくれたのが彼なの」なあんてことなんてないし、言えもしない。

何故と言われるまでは沢山沢山、数えきれないくらいの理由があるようで、いざ言葉に出して伝えてなんて言われたらスッと今まで頭の中にあった理由が無かったかのように抜け出してしまって、うまく伝えられなくなる。


「ねえ、雅治」

『なんじゃ?』


教室、いつも私と雅治の2人しかいない。朝早いために誰もまだ登校してこないんだろうか、もしくは部活動の朝練とやらに出ているのだろうか。どちらにせよ 私と雅治の2人しかいないこの教室はやけに静かで、静かすぎるくらいで。2人ともあまり会話を交わさないためか、微かな物音でさえも、そうだな、廊下の突き当たりの水道の蛇口の締まりが緩くって、水がポタポタと落ちていく音だって聞き取れる自信はある。そんな自信、いらないんだけど。
雑誌を読んでいるんだろうな、絵的に見える感じはテニスの雑誌だろう。曲がりなりにもテニス部員なんだなと皮肉なことを考えながら、窓の外に目をやるとテニスコートに帽子を深く被った長身の男が1人、入って行くのが見えた。あれは真田だ、毎日のようにみんなよりも早く来てる。やっぱりしっかりしているなあなんて頬杖をつきながら眺めていた。目線を泳がせて雑誌を読んでいるであろう雅治に目をやって話かけてみる。綺麗すぎるくらいの横顔に、長い睫、艶がある肌に唇、顔立ちは中学3年生なんてもんじゃない、ペテン師め。


「好きって言葉、どう思う」

『…好き、のう』

「言われたら、雅治は嬉しい?」


読んでいた雑誌の面を1つにまとめて机にバサリと置いたあとで、雅治は私と同じように頬杖をついてこちらと目を合わせることをした。私は雅治のこの仕草が好き、だ。私と目が合ってるは ずなのに、どこか遠くを見据えているような鋭くて、ちゃんと優しい、雅治のこの目が好きだ。


『嫌じゃないのう』

「嬉しいとは思わないの?」


私の問いかけが何か可笑しかったのか、くつくつと少し笑いそしてまた私の好きなあの目に、顔に戻ってくる。また私と目が合った。だけど今度はどこか遠くじゃなくて、私を見ていた。この目、私は好きじゃない。何もかもを全部知り尽くされてしまっているみたいで、どこか怖い、本当は嬉しいんだけど、まだ慣れない。


『ほら、100回好きって言うよりギュッと抱き締めた方がええって歌、あったじゃろ?』

「んーなんか違う気がするけど、あったねえ」

『そういうことじゃなか?』


そう言うと、雅治は少し微笑みながらも鋭く私をその目でとらえて、頬杖を止めて雑誌へと手を伸ばした。100回好きだと伝えても、きっと何か物足りない気持ちになるんだろうと私も思う。じゃあその物足りない気持ちはたった1回の抱き締めるという行為に全て委ねられて、ちゃんと相手に伝わってくれるのかしら。人間なんてちっぽけで、それでいて強情で、いろんな欲があるけれど、うまく出来ているものだと思う。こんな気持ちも、人間、うまく出来ている のかなあと思う。雅治はまた雑誌に集中し始める。私は1人、静かすぎるくらいの教室で頬杖をつきながら空を眺めた。あ、なんていう鳥だったっけ、変わった名前の鳥が空を飛んでいったのが見えた。告白というものをしたことがないと言えば嘘になるかもしれないけれど、告白と胸を張って言い切れるような、そんな立派な恋を、恋愛をしたことがなかった。こんなに近くに、こんなに好きな人が出来るだなんて思いもしなかったから。
頭に思い描いてた沢山すぎるくらい沢山のあなたへの好きっていう気持ちを、どうやったらちゃんと届けることができるのかなんてわからなかったけど、雅治が言うことは私にはなんだろう、わからないけどスッと入ってきてしまう。

立ち上がって、そのまま雅治の後ろにまわる。雅治は雑誌を読んでいるようだ、この人に限って、私が後ろに来たことに気付かないなんてことは有り得ないはずだから、今から私が何をするかなんてのは見え見えなんだろうけど。
私は雅治の肩の間から腕を伸ばして後ろからギュッと抱きついた。雅治は特にうろたえることもなくまだただじっと雑誌を読んでいる。


「、」


嗚呼ほらやっぱり、今まで用意しておいた気持ちがスルスルと私の頭か ら逃げていく。うまく言葉に出せない気持ちが私の中で空回る。もう後には引けないこの行動と、冷静な思考が私の中で喧嘩する、どうしようって、そう言ってる気がする。そしたら雅治がははって声を上げて笑って、雅治の前で組んでた私の腕に自分の手を絡ませてきた。前にギュッと引き寄せられる感覚と、雅治がこっちを振り返って、私の唇と雅治の唇が重なった感覚が同時に私を支配する。数秒の間重なってしまった唇が名残惜しそうに離れると、後ろから抱き締めていた私を正面から軽く抱き締める雅治。ふわっと甘い、だけど嫌じゃない雅治の匂いが鼻をかすめた。


『じゃ、両想いじゃのう』


そしてもう一度
甘いキスを

(口にしなくても分かることがある)
(なんてったって両想いだから)



2008/01/12 (C)mika. 






 


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