距離をおいてからそれ程経ってもいない、正直言うとたったの2日だけ。言い出したのは勿論自分で、理由も特にない気がしてきた、口から出た言葉はもういくら勢いであっても、戻ってきてはくれないものだ。少し距離を置こうと言ったのは、跡部としたあとのベッドの中。変に暖かい温もりがお互いの体にまとわりついて離れてくれない感覚に妙な違和感を覚えたのだ。ふと、跡部の家に置いてきた、否忘れてきた自分のお気に入りの靴とか、あと鏡とかとりあえず沢山、どうなっているんだろうって考える。ただ考えたところでどうしていいかも分からないから、頭が痛い。私が跡部の横からいなくなって2日、新しい環境は3日目。
「まだ居るつもりなん」
「仕方ないじゃん」
「早よ戻ってくれへんかな」
そう言いながら私の服に手をかけてくる忍足を、嫌とは思わない。妙に暖かいあの感じを忍足には覚えない。じっとしている私をよそにじわじわと迫ってくる忍足の指先をさり気なく交わして、服を元に戻すと、苦笑いを浮かべた忍足は立ち上がってコーヒーを入れる。安っぽい匂いが部屋を一面に包み込んだ。跡部の家のコーヒーはこんな匂いじゃない。
「心配しとるんとちゃうか」
「わけわかんないんじゃない」
そりゃそやろなあと笑いながら、私の分のコーヒーを持ってきて横に座る忍足を舐めるように目で追う。跡部が心配しているかしていないかは、正直どうでもよかった。どうして自分があんな別れ方をして、どうして自分が今忍足の横に座っているのかが自分でも不思議で仕方なかった。ただ、この男の作り出す空気が気になってしまった。気になってしまうともう思考は止まらない。どうしようもなく、ここにただ居る。今、跡部は何をしているんだろう。
「ほんまに、いつ帰ってしまうん」
「…わかんない」
急に空気を変えるこの男が憎い。横に居たはずの忍足は私を今後ろから抱き締めて離そうとしない。今こうしている私は、誰のものになるのだろう。
「なあ、ずっと居りや」
「どうして」
「跡部んとこ戻らんと」
「うん」
「ずっとここ居ったらええ」
耳の奥にまとわりつくのはは、忍足が私の耳を念を入れて舐める卑猥な音と、跡部の私を呼ぶ声、あとは雑音だけ。
人
形
物
語
08/04/03 (C)mika.
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