[携帯モード] [URL送信]




食べたい、食べたいと思った。きっと甘い。嫌な甘さじゃない、ちょうどいい甘さ。控え目で口に残ることもない、さらっとした、この世で一番程よい甘さだろう。考えただけで喉の奥の方が鳴る、ぐぐっと音がする。ペロリと唇の端から端を舐めると、また喉の奥が鳴るのがわかった。





先輩はすごい美しかった。可愛いとか綺麗とかそんな簡単に言い表せるような人じゃなかった。ただ俺はボキャブラリーがないから、勉強、できないから、頭ん中をぐちゃぐちゃになるくらいにかき回してフルに回転させて、やっと出てきた言葉が美しいっていう言葉だった。どこか腑に落ちない気もしたけど、もう俺の頭はいっぱいいっぱいだった。詰め込みすぎたんじゃなくて、なんか、なんとなくいっぱいいっぱいだった。そんな先輩と俺みたいな奴がくっつけるなんて思ってもいなかったから、結構俺、有頂天になってて、ずっとずっと大事にしようと思ったことを今でも覚えてる。好きで好きで、ずっと憧れてて、そんな先輩をずっと大事にしようって思った。ずっとずっと大好きでいれるって思ってたから、俺は何だって頑張っていけるって思ってた。





「赤也好きだよ」


先輩にそう言われる度に俺の中でいろんなものがわいた。その口から出る美しい声から、美しい手、指先から、脚、脚の先の先の先の先から、俺を微かに映す少し茶色かかった目から、何から何までを全部離したくないと思った。好きだ好きだ好きだ、好きだ。ずっと好きでいたいと思った。たまに愛してると言う先輩のその動く唇が特に好きだった。俺の唇をなぞるその指先が特に好きだった。だけど何よりも唇を合わせたときの先輩の柔らかさが好きだった。唇の柔らかさだけじゃない、全てを溶かしてしまうような、溶かされてしまうんじゃないかって思うくらいの柔らかさが好きだった。愛してた。先輩と唇を合わす度に、先輩と夜を過ごす度に、好きだという気持ちは薄れることはなく、むしろもっともっとというように、俺の好きだって気持ちはつのっていった。



ある日先輩が言った。ちょうど事を終えた後で、2人して俺のベッドで横たわっていたときだった。先輩が言った。「もう赤也なしじゃ生きていけない」この時俺の中で何かが外れた。外しちゃいけないものが簡単に外れた気がして、少しだけ戸惑ったことを覚えてる。そう言って先輩は俺の唇を奪った。先輩のキスは上手くはなかった。普通のキスだった。この前付き合ってた先輩より年上の彼女が、俺の知ってるキスの中で抜群に上手かった。そんな先輩の可愛らしいあどけない動きをした舌に俺のを軽く絡ませたら、先輩は甘い息を漏らす。この声は、俺が知ってる中で一番色っぽくて美しい声だと思う。少しして先輩が俺から離れて、俺の唇を美しい指先でなぞることをした。俺の中の何かがわいた。甘いだろうと思った。そう思って、気がついたら先輩の指先を口に含んでいた。俺の舌が、俺の口の中で、先輩の美しい指先を舐めあげる。甘いだろうと思った。だけど違った。甘いのは指先を舐められて感じたのか、先輩の口から漏れた吐息だけだった。だけどまだ俺の中で何かがわいている。甘いだろうと思っている。気がついたら先輩の指先を甘噛みしていた。先輩の声がより一層艶やかになった。指は、感じるのだと知った。 でも俺が知りたいのはそんなことじゃなかった。甘さだ。俺の中でまだ何かがわいている。甘さが足りないんだ。先輩は相変わらずいい声を出している。なんて人なんだと思う。壊してしまうのは惜しいと、ふと思った。そう思ったとき、俺は口の中になんとも言えない甘さを感じた。


「痛っ」


先輩が一際大きく喘ぎ、そして俺は満たされた気分を味わった。気分だけじゃない、口に広がっているこの甘さを味わった。美味しいと思った。これは今までにない甘さだと思った。先輩の指先を口から出して見つめてみたら、第一関節のあたりからじんわりとした赤が滴っていくのがわかった。先輩は少し顔を歪めてはいたもののまんざらでもない顔をして俺をその美しい目にしっかりと映していた。今まで見た先輩で一番美しい先輩だと思った。指の付け根まできた赤を舌先で舐めとると先輩は美しい顔を更に歪めて美しくさせた。

甘いと思った。今までにない甘さだと思った。これからもこの甘さを味わっていけるなら、俺は何でも頑張れる気がした。ここに横たわっている美しい人は俺の何だったかもう思い出すこともしないだろう。 ほのかに開いたこの人の口の中にある舌を見て、今度はここの甘さを感じてみたいと思った。俺の中の何かが、間違いなくわいている。

目を閉じたこの人の目に、俺は映ってはいなかった。



好きから堕ちる
(血に堕ちる俺)
(昔はキミを愛していた)



2008/02/21 (C)mika. 






 


あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!