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♯追悼





「妹子っ!将来私は教科書に載るぞ!」
「……そうですか」
「そうですかってお前!」

反応が薄いんだよ芋やろう!と太子は地団駄をふんだ。いやだって太子、ねえ?

「教科書に載るって、随分と先のことじゃないですか」
「……そうだけどさ」

しかも僕らが死んだずっと後だ。死んだ後にごちゃごちゃ評価されたって、僕はあんまり嬉しくない。どうせなら生きてるうちに評価してくれ。給料あげてくれ。仕事してくれ太子。

「でも私が死んだずっとずっと後の時代で、私が評価されて歴史に私の名前が残るんだぞ!凄いことだろ!」
「そりゃまあ凄いですけど、それなら僕だって教科書に載ります」
「なにー!お前はいい!お前が載ったら私の影が薄れてしまう!」
「そんなこと言ったってそれは後世の人が決めることですから」
「くっそー……もう!もうお前は改名しろ!糸こんにゃく丸に!」
「ふざけんな!」
「バナップ!」

僕の拳はきれいに太子の顔面へおさまった。変な叫び声をあげた太子は派手に吹っ飛ぶ。なんてひ弱さだ、僕そんなに強く殴ってないぞ。
スライディングしていく太子を仕方なく追いかけることにした。太子は木の幹に思いきり頭を打ち付けて止まる。僕が追い付くと、太子は頭を抱えて縮こまっていた。痛かったらしい。
大丈夫ですか、とたずねると、大丈夫じゃない、という小さな声が聞こえてきた。どうやら大丈夫なようだ。これで少しはまともな頭になったかもしれない。感謝してほしい。

「ほら、立ってください太子」
「お前のせいなのに……」

二の腕をつかんで立たせてやる。太子は思ったよりもずっと軽かった。あまりの軽さに少し驚く。ちゃんと食べてるのだろうか。
そんな僕をよそに、ちぇーと太子はつまらなさげにしていた。教科書に載るのは私だけでいいのにーという言葉が聞こえた。そんなアホみたいな教科書は嫌だ。

「そもそも、太子はなんでそんなに教科書に載ることにこだわってるんですか」

んんー?と間延びしたような返事を、太子はした。僕の方へくるりと振り向く。

「だってさ、妹子。教科書に載れたら、私はみんなに覚えてもらえるんだよ。漫画にも登場して、アニメにもなるかもしれない。私を好きになるかわいい女の子もいるかもしれない」
「最後だけはないと思います」
「なんで今日そんなに辛辣なんだよお前……」

太子がしょんぼりした。いやないだろう、さすがに最後のは。
教科書には太子が本当は臭くてどうしようもないアホでしょーもないオッサンだということは載るだろうか。仕事しないこととか、人類離れしてることとか、そういうことも。
私が有名になったら、私のお墓に来てくれる人もいるかもしれない、と太子は言う。何年何十年何百年、千年以上先の未来、太子の名前が残って、太子の墓には花の一輪でも添えられているかもしれない。それは確かに、きっと幸せなことだろう。

「太子、じゃあ僕が一番初めに太子のお墓に行ってあげます」
「なんでお前の方が長生きの設定なんだよ!」
「僕の方が若いからです」
「なんだと!私だってまだ若いぞ!ヤングマンだ!それに歳上だから先に死ぬってのもないぞ!」

それは確かにそうかもしれない。しかも太子のことだ、寿命も人間離れしていて長いかもしれない。僕としたことがそんなことも考え付かなかったなんて。
しかしそうなったら太子が僕の墓に来るかもしれない。こいつのことだ、ピクニック気分でやってきてばか騒ぎして帰っていくにちがいない。そんなのごめんだ。やっぱり僕はこいつより長生きしなければならないだろう。太子はいまだぶーぶー言っているけれど、僕はもうそれを心に決めた。
太子、と呼ぶ。

「そうしたら、もし、太子が僕より先に死んでしまったとしたら、お墓にはカレーおにぎりのひとつでも供えてあげますよ」

そう聞いた太子はにっこり笑った。
それに僕はなんだか悲しくなってしまった。









推古暦2月22日 聖徳太子命日
(20110222)


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