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「あなたが、」

吐き出された声は、まるで血を吐くようで 。
掠れて、絞り出されて、揺れて、

「あなたのことが、」

私は。
こんなに苦しい愛の告白をしらない。


「…っあなたのことが、すきです──」


こんな、懺悔のような愛の告白を、
知らない。

*****


どうもみなさんこんにちは。
私です。航土八雲です。

現状報告。
ていうか現状整理。
えっと。
大してよくない視力で映し出された視界には、それでも明瞭に美しく存在する美人さんと、ぼやけた天井と電気が見えます。

栗毛が重力に逆らうようにこちらの眼前に落ちてきて、いつもはつけている眼鏡に遮られている紫色の目は、今は何に阻まれることもなくこちらの目を直視している。
痛ましいと思った。
その、たくさんの紫を混ぜて割ったみたいな綺麗な色の眼に浮かんだ明らかな罪悪感を、
私はほかでもなく、痛ましいと思った。

どうしたんですかね、この人らしくもない。

この人。
七々見七千さん。
服着たり脱いだりして写真を撮られるお仕事についていらっしゃるお方です。
そりゃ事務所もスカウトも放っとかねぇわ、っていう美人顔。
イケメンよりも美人寄りで、繊細な感じの美人。
穏やかで優しい人柄、のわりに意外と男気溢れるところもあったりして。
おそらく私とこの人のマネージャーさんとその他数人しか知らないであろうその男気溢れる部分に時折触れることができるのは、少しばかり気分のいいものだった。

私?
しがない声優です以上。
何かの雑誌のトークで一緒になってから何か仲良くなりました。
ファンの子にいつ刺されるかとおびえる日々。

じゃなくて。
何でこの人こんな顔して私のこと押し倒してるのかって話ですよ。
どうした欲求不満か。
この人に似合わなそうな言葉ベスト10に入りそうだな、欲求不満とか。


「どうしたんです、」
「僕が」


遮るように吐き出された言葉は、
ひどく切迫して聞こえた。
絞り出されたような、今にも死んでしまいそうな声。


「今から、あなたを、犯します、って、そう言ったら、
…貴女はどうしますか」


泣かないで。
咄嗟に手を差し出しそうになって、そのまま絡め取られて、またベッドに縫いつけられた。
近づいてくる綺麗な顔、もはや距離はないも同然だった。

ゼロ距離まで、あと10pくらい。


「でも、ごめんなさい、貴女が嫌だと言っても、
───もう、逃がしてあげられない」


どこか、躊躇うように、静かに、距離がゼロになる。
触れた唇に、私は呆然とするしかない。
触れるだけだった唇が離れて、そして視線が音もなく絡んで。

今にも泣き出してしまいそうな眼に、魅入られる。
何で。
何であなたが、そんな顔をしているんですか。


手首を痛いくらいに握りしめている白い手をそっと払う。
歪んだ顔に、柄にもなく焦ったりして。
違う。
拒否してるわけじゃない。
ああ、泣かないでください。

さっきは阻まれてしまったから。
もう一度、なめらかで白いその頬に、手を伸ばす。


「やっとですか」
「っは、?」


水分を湛えたまま、その紫色の瞳が見開かれる。
ああほら、そんなに大きく開くとこぼれちゃいますよ。


「あんだけ飲み行ったり食べ行ったりするのに一切手を出してこないのは完全に脈なしかと思ってたんですよ。
ぎりぎりセーフでしたね、あと少し遅かったら私があなたを襲う予定でした」


頬を包むように手を添えて、おどけるように笑ってみせる。
今度は私の方から唇を重ねて。


七千さんはとにかく優良物件だ。
今をときめくモデルだし。この容姿に加えて、そしてこの性格。一夜限り、身体だけの関係でも、と願う女性だって少なくない。
かく言う私もその一人だった。とは言っても私の場合は中身は二割だけど。気のない友人として見られるならその他大勢の女として見られる方がよかった。
そばにいられるだけで幸せ、なんて聖人君子な考えは生憎と持ち合わせていない。


ぼたり。
降ってきた生温かい雫が、頬に触れてから布団に落ちた。
えっ。


「なんで、泣いて、」
「あなたが、」

吐き出された声は、まるで血を吐くようで。
掠れて、絞り出されて、揺れて、

「あなたのことが、」

私は。
こんなに苦しい愛の告白をしらない。
ぼたぼたと、勢いよく、それは私の顔に降り注ぐ。


「…っあなたのことが、すきです──」


こんな、懺悔のような愛の告白を、
知らない。

泣かないで。
泣かないでください。
どうしていいかわからなくなるから。


「僕は今、貴女を僕の人生に巻き込もうとしています。
きっと辛いことばかりだ。嫌なことばかりだ。どうしようもなく嫌気がさして、手を払いたくなることだってあるでしょう。
きっと僕は貴女を不幸にする。
不幸にするとわかっていて、それでも貴女の手をはなせない」


貴女の幸せを願うのと同じ口で、貴女を不幸にしようとしている。


確かにこの人の周りには怖い人がいっぱいいそうだ。
冗談なんかじゃなくて、刺される可能性もなきにしもあらずってとこだろう。
でも大丈夫。
大丈夫なんですよ、だから泣かないで。


「私は、あなたとなら不幸になってもかまわない」


囁くように。
あなたに与えられる不幸なら、きっと何よりもいとおしい物になるに違いないのだから。


「私もあなたが好きです、七々見七千さん。
私と一緒に不幸になってください、あなたの不幸を私に分けてください」


それと同じだけ、幸せをください。
綻ぶように泣きながら笑った彼の顔は、今までみた何よりも綺麗だったと、そういいはれる自信がある。


ま、私今日危険日だけど、いいよね!!!
危険日とこの状況が重なったのは偶然だと思う。


***


少し躊躇しながら触れてくる掌がくすぐったくて、身を捩りながら這い回る手を掴む。
それはそのまま絡められて、指の付け根に一つ一つキスを落とされた。
それもまぁくすぐったいわけで。

忍び笑いを漏らすと、彼の顔も緩む。
脇腹から下肢に、ゆったりと手が降りてくる。


片足を担ぎ上げられて、足の間に顔が埋まるのを見て、


「えーっと」
「どうしました?」


何て言うか。
いやお前空気読めよって話なんなんですけどね!?
待って!?


「この、ここからの、アングルが」
「はい?」
「すっごい、………いけないことさせてる気分になる……」


七千さんすっごい美人だし!
美形じゃなくて美人な!?美人!
察せ!?


栗毛の!紫色の目の!物凄い美人が!
私の!
【自主規制】を!
今まさに舐めんとせんそのアングルが!
エロいの何のって!


もうそれだけで興奮するわ。
やばい私すっごい馬鹿みたい。


「っ」


明らかに何か触った。
ひぃやばい。
今になって恥ずかしくなってきたつらい。
ダウンしたい。


「いけないこと、しようとしてるんですけどね」


 や ば い 。
このアングルからの上目遣いとか私には荷が重すぎる。
何ですあなたその色気。どこで身につけてきたんです。


「すいません、焦ってるんです」
「焦ってる……」


ようには、見えないけどね!
私の目が腐ってるのかもしれない。


「当然でしょう、今あなたが僕のものになろうっていうのに、どうして焦らないことが」
「……私は」
「はい?」
「私は、気持ちいいことがすきです」
「は?」
「あなたのことも好きです」


だから何度でも言おう。
この角度エロすぎて死ねる。あと恥ずかしすぎて死ねる。


確信。


「すいませんちょっと、意味が……」
「だから!」


私は今絶対顔が赤い。



「もう、どうにでも、してください………」



この状況でそんな煽り方するなんて、
貴女意外とMなんですね。

そう言って笑った七千さんにもう何か。何か。
っていうかあなたこそそんなMとか俗な言葉使うなんて。
もうどうにでもなれ。


***


後ろから強く突き上げられて、口から内臓が出そうだった。
この感じやばい。
すっげぇくせになりそう。こわい。


「おく、きもちいいですか、」


答えられないから、必死で首肯する。
口は閉じられないのに、ちゃんとした言葉も出てこない。
つか私の声ってこんなに高かったんだなぁ(棒)。


ぐじゅぐじゅと湿った音がする。
きもちいい。
あったかい。

ゼロ距離よりももっと近い、
とけてぜんぶいっしょになっちゃえばいいのに。


「、   、」


かなり気遣いの感じられない動きで揺すぶりながら、七千さんが何かを呟いた。
何。



「はらめ」


!?
原目………


「孕め」


命令口調だしな!
孕め、孕め、孕め。
まるで呪いのように落ちてくる。

………呪いじゃないか。
いうなればそれは、まるで祝福のように。


ああもうホントに。
冗談だとかじゃなくて、このまま孕んじゃえばいいのに。


この人を縛り付ける枷になればいい。
この人が、私を縛る枷になればいい。


好きな人と自分の遺伝子を掛け合わせた存在が、愛しくないわけがないのだから。


 →おまけ


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