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三位:時雨×晴生



―――――

一年、冬。
バタバタと喧しい音とともにドアを開いたそいつは、涙声で言った。

「ココ、コワイ!」

カタコトなそれに、僕は笑顔で言ってやった。

「帰れ」




天崎晴生は真面目で冷静で美形な、生徒の憧れである。親衛隊タイプの生徒からは頬を染めて天崎様なんて言われているくらいにだ。ただ一方であのお綺麗な顔を歪めたいだのなんだの言う輩もいるが、そのあたりの浮ついた下衆は某女子が秘密裏に処理しているので天崎には知られていない。
そんな天崎晴生であるが、

「もうやだなんなのここ現実なの雪ちゃんの妄想世界に閉じ込められてるんじゃないの俺…」

本性はコレである。

「今度は何があったんだようぜーな」
「時雨さんそれ生徒に向かって吐く言葉とチガウ」
「聞いてやるだけありがたいと思え」

言えばおとなしく「ハイ」と言う。とはいえものすごく不本意ですって顔は普段の優等生からは想像もできない姿だ。これだから、秋にこいつの本性を知ってから僕は職員室で「先生のクラスの天崎くんは真面目で模範的な生徒ですね」と言われるたびに微妙な顔をしなければならないんだ。

そんな天崎が話したそれを要約すると、こうだ。
屋上で普段の天崎になって昼食を取っていた。秋嵐と凍坂が用事があるから先に戻った。自分も戻ろうとして知らない生徒と遭遇した。軽いセクハラを受けつつ口説かれた。と。

「バカだろ、お前」

うん、絶対バカだ。素の格好の天崎は「なんで!?」なんて騒いでいるが、あっちの作ったお前ならまだしもこっちの姿なんて危機感も警戒心も頭も足りなそうな顔してんだ。狙われもするだろうよ。

「いやいやだから俺男だからね!?」
「だからそれが普通なのがここなんだっつーの」
「だからそれがおかしいんだって!!」

だからだからうるせーよ。
必死で嘆く天崎は、ここに来てもうすぐ一年経とうというのに未だここの制度になれないらしい。お前の友達の女子なんか嬉々としてるっつーのに、慣れろよ。つか、

「お前そんなんで副会長とかできんの?」

そんな僕の問いに天崎は言葉に詰まる。
こいつは友人腐女子の頼みとかいうよくわからない理由で、これから副会長になる予定だ。
しかし、ハッキリ言って生徒会なんかに入ったらこいつに付きまとう人間は今の比じゃなくなるだろう。親衛隊もできるだろうし。
そこまで言ったところで天崎は言い訳するように「小さい子とか親衛隊みたいな子たちは大丈夫だもん」と反論した。言っときたいが、お前の親衛隊は多分ネコばかりではないと思う。今はそう目立ってないから目を付けられていないが、目立てば寄ってくるのは多分タチ側の人間だと思う。

「お前ホントに危機感ねーよな」
「そんなこと」
「あんだろ」

ドンッと肩を押せば天崎は「へ?」なんてマヌケな声を上げて後ろにあった椅子に勢いよく座った。そのままその後ろの机に手をついて逃げ道をなくしてやると、天崎はどうしていいかわからないというような顔をしてこちらを見上げて来た。ここで警戒しないあたり抜けているんだよな。副会長姿とは大違いだと思うが、もしかしたら中身がこいつな以上副会長モードも実はヤバいんじゃないだろうか。

「僕にさえこうやって押し倒されるんだから、親衛隊の奴らにだって押し倒されるかもしれないぜ?」
「え、だって、まさかぁ」
「んで逆レイプって可能性も…」
「ぎゃッ?!」

顔を真っ赤にして天崎は叫ぶ。そういうことは考えていなかったらしい。教えとけよ、凍坂。

「やっぱこわい…」

深いため息を吐きつつ、座った体勢のまま天崎は立っている僕の腰あたりに抱き着いた。…教師として信用されているのはわかるけど、こいつはマジでアホなんだろうか。
まあ、アホな子ほどかわいいっつーから本気で追っ払えないんだろうけどな…。僕も甘いもんだ。

「なんなら僕と付き合うか」
「………はい?」

このまま甘やかしっぱなしも性に合わないのでふざけて言ってやれば、天崎は顔を上げる。普段上げているため長い前髪が目にかかっているのを上げてやれば、その目はマヌケに丸くなっていた。アホ面だ。

「風紀顧問のモンに手出すバカはそういないだろうし、僕は恋人にはやさしいぜ」

にやりと笑いつつ額に音を立ててキスしてやると、ぶわっと天崎の顔が真っ赤に染まる。そしてそのまま僕を突き飛ばして「失礼しました!」と叫びつつ出て行ってしまう。
アホな子ほどかわいい。そうは言うが…

「別の意味でも可愛いんじゃねーの」

次の担任クラスの授業に行く準備をしつつ僕は、ちょっと本気にでもなってみるかと笑った。


あきゅろす。
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