[携帯モード] [URL送信]
四位:秋嵐×晴生


―――――



「晴生」

聞き慣れた声。
呼ばれ慣れた名。

自然に頭に乗せられた手に晴生はゆっくりと目を開いた。覚醒しつつ頭を上げて手の持ち主を見れば、そこに居るのは見慣れた整った顔で、晴生は目を擦る。

「うう…おはよう、嵐ちゃん…」
「目擦んな。あと、今副会長モードだぞお前」
「ふぇ、そうだっけ。じゃあ起こしていただいてありがとうございます、峰藤」

見回せばそこは生徒会室で、確かに髪もあげているためモードを変えて挨拶をする。多少髪が乱れている気がするのは机に突っ伏して寝ていた所為だろう。どうやら生徒会の仕事中に眠ってしまったらしい。と、ようやく働くようになってきた頭で考える。

「それで、何故峰藤が生徒会室に居るのですか?」

彼は既に生徒会をやめた身である。加えてそのときにいろいろと問題があったこともあって、普段は生徒会室になど近付こうともしないのに。

「何故って、お前のこと迎えに来たに決まってんだろ」
「俺…自分を?」

思いもよらない答えに一瞬素に戻りながら首を傾げる。迎えに来るほど重要な用件があるようには見えないが、どうしたというのだろう。

「用件じゃねーよ、心配して来てんだ」
「心配」

思ったままを疑問にすれば返ってきた言葉がまた意外で、思わず目を丸くして復唱する。
彼に心配をかけるようなことを自分はしただろうか。彼の前ではできる限り心配をかけるような行動はしないよう心掛けているつもりだ。特に秋嵐が生徒会をやめて喧嘩をしてからは、ずっと。
なのに。

「寝不足だろ、晴生」

症状を見事に言い当てられ、晴生は目を逸らす。副会長モードのまま、しかも生徒会室で居眠りをしていたのだからばれるのは当然だったのかもしれないが、きっとそれだけではないだろう。
実際に少し心配ごとがあって寝不足になっていて、しかしバレないように巧みに隠していた晴生だったが…たぶん、気付かれていたのだ。
この峰藤秋嵐は、最初から気付いていたのだ。

「ご心配をおかけして、すみません」

断定で言われてしまった以上否定しても無駄だろうと小さく素直に謝ると、秋嵐はため息を吐き、両腕を軽く広げて座っている晴生に一歩近付いた。

「そこは副会長モードじゃなくていいんだよ」
「……ありがと、嵐ちゃん」

その行動の意味が分かり、晴生は頬を赤くしながらも遠慮がちに抱き着く。自分から抱きしめることは多いが、こうして抱きしめられることはあまりない相手だ。
照れもする。
対して秋嵐はその表情を軽く緩ませて、珍しくもデレ全開で普段は自分よりも高い位置にある晴生の頭に手を乗せる。いつもは抱きしめられて拒否することも多いが、こうして抱きかえすのも悪くない。ぽんぽんと軽く背中を叩いてやると、腰に回されている腕にぎゅうと少しだけ力が込められた。

「お前の方がでかいのに、子供みたいだな」
「嵐ちゃんが男前なのが悪い」

小さく笑うと、むう、なんて本当に子どものような反応が返ってくる。
それに再び笑いつつ、秋嵐は、さてと晴生に回した腕を外す。



そして―――その場に居る白鳥と黒川を経て、部屋の中央奥に座っている人物に「いいんですか、アレ?」と聞いている高森を過ぎ、座っている人物―晴生の恋人である一条雷士で視線を止めた。
雷士は口では「いいんだよ、今日はデレ嵐晴デーらしいから」などと昼休みに某腐女子に言われた言葉を要約して言いながらも射殺しそうな目で秋嵐を睨んでいた。
因みに某腐女子の言葉の全文は「ほのぼの萌えが足りない!今日はデレ嵐晴デーにするから異論は認めないから秋嵐くん、晴生くんよろしくね!」である。寝不足云々は設定でも嘘でもないためきっと晴生の症状を見抜いてでの行動だったのだろうが、それが雷士に伝わっているかいないかは定かではない。

しかし、これはまずいな。晴生が。

内心自分の恋人と雷士を思い出し比べつつ、秋嵐は晴生の背を叩く。あれまでとは言わないが、雷士もこういう行動を咎める時は面倒臭いのではないのだろうかと思ったが故である。

「晴生ー。そろそろ離れねーと後が怖いぞ」
「いーのー。雪ちゃんの命令だもん」
「真雪は後のお仕置きも込みで楽しんでるんだと思うけどな」

ぎゅうぎゅうと抱き着く、自分よりも真雪のことをよく理解している晴生が一瞬ビクッとしたのに苦笑しつつ、しかしまぁ、と秋嵐は、

(俺には被害ねーし、いっか)

ともう一度晴生の頭に触れたのだった。


あきゅろす。
無料HPエムペ!