ガキの頃からの一番の友達は由貴だった。色が白くて、貧弱で、弱っちいけど、笑った顔がかわいくて、由貴を守るのが俺の役目で…。
いつだったか、あいつが木から落ちた時にも迷うことなく受け止めた。
自分の怪我よりも、由貴の無傷に心から安堵したことを覚えている。
守れたのが勲章みたいに誇らしく、胸が熱くなった。
包帯が目立たないように、ゆっきにせがんで頭を染めてもらうと、親父に激怒され、3日間納戸に閉じ込められた。
暗い納戸の中でずっと考えるのは、由貴のこと。
笑った顔、
怒った顔、
拗ねた顔。
色んな顔を思い出したいのに、泣いてる顔ばかりが頭をよぎる。
最後に見た顔は泣き顔で……由貴は顔を涙でクシャクシャにしながら、何度もごめんねと繰り返した。
大丈夫、心配ないよって言いたいのに、体がうまく動かなくて……。
なんてことはない好きだからじゃ。
気付くのにそう時間は掛からなかった。
親父の怒りがとけ、会いに行くと俺と由貴は結婚の約束をした。
色鉛筆と折り紙で
「けっこんとどけ」
を作り、おもちゃの指輪を交換するとすかさず、両親に挨拶に報告しに急いだ。
由貴を男だとか女だとか性別で考えたことがなかったから、男同士では結婚出来ないとは考えもしなかった。
結婚したらずっと一緒いられると思ったのに、男同士だから、結婚出来ないから、一緒にいられないんだ。
単純な俺はその考えに至る。
初恋は実らないとは良く言ったものだ。深い深いところに気持ちを沈めて、無意識に鍵をかける。
自然に由貴とは距離をおくようになった。
由貴がまおらになって俺の目の前に現れたときには驚いた。そんなことしても、結婚出来ないから、意味がないのに!
まおらとはそれ以来ケンカばかりのお互い意地の張り通し。
つかず離れずのクサレ縁が続いて、俺らは高校生になっていた。
由貴はすっかりまおらで馴染んでいて、幼なじみから見ても美少女に仕立てあがっていた。
だからと言って2人の関係が変わるはずもなく、俺はしーずんに恋をしていた。
まおらはそれを見て横槍を入れることはあっても、それ以上踏み込んでくることはなかった。
それが2人の中のルールであり、境界線でもあった。
それが当たり前に続くなんて、疑いもしなかったオレはなんてバカだったんだろう。
「えっとねぇ〜まおらは男なんだよ」
「知ってます。それでも貴方のことが好きなんです」
この光景を見て初めて血が逆流するような感情を覚えた。
まおらが自分以外の人間に取られるかと思うとゾッとする。
何よりまおらがこういった奴らを手慣れた様子であしらっているのを見てショックを隠せない。
勝手な話だが、由貴がまおらでいる限りは自分のことを好きだって信じていた。
だから、俺は他の恋愛に目を向けることが出来た。
しかし、まおらに相手が出来た場合、俺は何でもない顔して、その事実を迎えることは多分出来ない。
とても情けない困った顔をしてその場から動けなくなるだろう。
立ちすくんでその場を動けないでいると、まおらはそれに気付いて、俺に向かって、ビシッと指をつきつけた。
「あっーバカまぐっ。覗きとは悪趣味ー!」
告白された後でもいつものような軽口についついいつものように返す。
「こんなところで告白されているのが悪いんじゃ」
「ふぅん?全部見てたんだ」
見透かすような視線が俺を突き刺さる。
「へっ変な男に引っかかるなよ…」
真っ直ぐ見ることが出来なくて、目を逸らすと、細い指先が空を切った。
「嫌い!あんただけには言われたくない」
数秒のあいだ見つめあうと、俺が先に目を逸らした。
「……バカ」まおらはそう呟くと、走り去っていった。
臆病な俺は今頃泣いているまおらを追いかけることすら出来ない。
そうだ俺が悪い。
ぐらりと揺らぐ。
足元が崩れ落ちていくのを感じた。
全身の力がガクッと抜けるとその場に座り込んだ。
「ばっかでぇ〜」
今頃になって、ひっぱたたかれた頬が痛み始めた。
ぐらりと揺らぐ
080322
END
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