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朝すれ違い様に殴られてから今日はもう何度目だろう、殴られた衝撃で足がふらつく。
訓練は怠りなくしているし、不本意にも殴られ慣れた体はそれに耐える術を知っていたが、こうも頻繁にみぞおちに拳を打ち込まれたのでは堪らない。
日が落ち始めた夕暮れ時。
空が赤く染まるのと同じくして、スクアーロの目の前もちかちかと赤く染まっていた。





「ゔ、がは…っ」





口内を噛み切ってしまったのか、血混じりの唾液が口から垂れる。
げほげほと咳き込む度喉をかすめる空気が泡立って嫌な音を立てた。
震える足を叱咤してなんとか崩れ落ちることだけは免れるが、止まらない唾液が口元と喉を醜く汚す。
それを拭いもせずに腹を押さえ苦痛に耐えるスクアーロを、ザンザスは気にかけるどころか再び痛め付けるべく腕を振り上げた。





「ゔお゙ぉ゙い!!!!ちょ、待てぇ……っづ………!!!!」





これ以上殴られては堪らないと、痛む体を必死に保ちスクアーロは制止の声を上げる。
張り上げた声のせいで腹筋に力が入って引き攣るそれを右手で撫でながら理不尽な暴力を奮う暴君を睨んだ。





「今日は殴られる様な覚えはねぇぞぉ…
ご機嫌斜めで当たるなら、もっと手加減しろよなぁ」





そう、今日は彼の機嫌を損ねてはいない筈だ。
第一朝顔を合わせて数分後には殴られていたし、その前交した言葉など只の挨拶に過ぎない。
気に障る隙すらなかったのだから、今殴られている理由は八つ当たりなのだろう。
そんな扱いを受ける事に異議は無いと言ったら嘘になるが、今に始まったことではないので悲しいかなもう慣れた。
それでも八つ当たりなら八つ当たりで手加減位して欲しいと訴えると、ザンザスは盛大に舌打ちをしてその端正な顔を嫌そうに歪める。





「お前が悪い」
「…………だからその理由を聞いてるんだろうがぁ」





スクアーロは今朝彼に会うまでのことを何度も頭の中で反芻して必死に思い出すが、やはり彼の機嫌を損ねる様な事をしでかした覚えはなかった。
だがしかしザンザスの機嫌が最高潮に悪いことは理解していたので、自分が悪いのならば(それも言い掛かりなのだろうが)原因を聞きさっさと謝ろうと心の中で算段する。
流石にこれ以上殴られたら体が持ちそうになかった。





「理由はなんだ?分かんねぇぞぉ」
「……………………匂いが」
「ん゙ん゙?」





言いかけた言葉が聞き取れなくて疑問混じりに聞き返すと、先程まで自分を殴りつけていた武骨な手が伸ばされる。
その手の意味を図りかねてスクアーロが動かずにいると、それは咳き込んだことで乱れたままになっていた銀色の髪を乱暴に掴んで。





「髪の匂いが違うっつってんだよドカス!!!!!!!!」





ザンザスの怒鳴り声と共に長い足が速度を付けて舞い降りて、スクアーロに吸い寄せられた。
あぁそう言えば今日からシャンプーを変えたのだと思った時には、ブラックアウト。










目覚めたスクアーロは今朝開けたばかりの真新しいシャンプー類をルッスーリアに押し付け(勿体なくて捨てられなかった)、以前愛用していたものを買い揃え直したという。















20070207
ボスは前の匂いの方がお気に召していた様子(笑)



























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