本当は聞きたくない。好きな奴とその恋人との会話なんて。俺はロッカーに隠れたことを後悔した。さっさと部室にでも行ってあの汚い、物に溢れたロッカーを掃除するだとか、図書館に行って、目についた本を立ち読みするだとか、すればよかったのに。
「なんかあったの?」
「うん、俺ダメだったよ」
「え、言ったわけ?」
「うん、でも、断られた」
「うそだろ…」
何の話なのか全くつかめない会話。若林が何かに悩んでる、という雰囲気はかろうじて読み取れた。
じめじめとした湿気がロッカーの中だけではなく俺の体内にまでも侵入してきているような気がして、ぐっと唇を噛んだ。
「自分で考えた案だったんだけどさ、やっぱり無理だったんだよ」
「若林…そんなことは」
「あいつはもう俺のこと、好きじゃないんだよ」
「弱気になんなよ」
「弱気とか、そんなんじゃなくて、あいつ俺のこと、とことん避けててさ、」
語尾が滲んで震えていた。
「なんで、好きなうちに告白してくれなかったのかな」
「あいつは、そういう奴だよ」
「わかってる、けど、でも、」
「じゃあさ、若林、この作戦やめようぜ。」
「え…?」
「俺と若林が別れたって知ったら、避けたりするのやめるかもだろ、春日」
がたん!!
足元のバケツが揺れた。突然名前を呼ばれて頭がついていかない。
何で俺の名前が出たんだ?
「誰かいんの?」
さっきまで震えていた若林の声が訝しげに変化する。足音が近づく。
キイ…
軽く錆びた音を立てて、ロッカーの扉が開かれた。
「か、すが…」
今日初めて目にした若林の目は赤く腫れていた。
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