翌日、雨。
細かい雨粒が雨合羽の隙間から顔や髪や手先を濡らす。
今日は登校中に、若林を見かけなかった。それを寂しく感じつつも、安心している自分に気がついて胸がもやもやする。
教室につくと俺は、一番乗りで、しんとした薄暗い教室は湿った空気を孕んでいて気持ち悪かった。
わざと、だ。
わざといつもよりも一時間早く家を出た。どうしてだかはわからない。
なんとなく、普段と違うリズムで一日を始めたかった。
パチ、スイッチを押して、かばんを机の横にかける。
いつもとは違った雰囲気の教室は、なんだか別世界みたいだ。
別にやるべきこともない俺は窓際の席に座って外を眺める。
生徒はまだぽつりぽつりとしか歩いていない校門から昇降口まで続く道。
二、三色の大きな傘だけが上からは見えていた。
「あ…、」
俺は音を立てて椅子から立ち上がった。視界が揺れる。見慣れた色の傘が二つ見えた。谷口と若林だ。俺は動揺した。昨日の今日だし、今は三人にはなりたくない。
俺は慌てて教室後方の掃除用具入れに体をねじこんだ。
(何やってんだ、俺。)
また、逃げるのか。まだ、逃げるのか。情けない。なんて男だ。
息を潜めたおかげで何だか苦しい。押し殺した呼吸の音でロッカーの中がいっぱいになった。
からからと音を立てて教室の扉が開く。静かな教室の中に上履きの出す軽い音だけが響く。
どういう顔で二人が入ってきたのかはロッカー内からは見えない。
不意に若林のため息が聞こえた。
「どうした、若林」
「谷口…俺もうダメ」
手が震えるのを必死で抑えて俺は耳をすませた。
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