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「相手、なんか、いないよ…」

か細い声に、思わず髪を撫でる手が止まる。若林は涙を零しながら俺を見た。

「…相手なんか、いない」

「…な、に」

「春日は、もう、俺のことなんか、好きじゃないの…?」


若林の瞳が揺れる。いや、違う、揺れているのは俺の瞳だ。動揺は波紋のように胸を揺るがした。

若林は、何を言ってるんだ?

「…ごめん、俺今日帰る」

立ち上がった若林を引き止められない。何も考えられない。わかっていたことなのに。若林が俺の気持ちに気付いていることなんて。

ぴしゃと弱々しい音を立ててドアが閉まった。


生々しい臭いとそれに混じる若林自身のやわらかな匂い、そして静寂だけがそこに残った。










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