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長く、果てしなく続く教会の廊下に響く二つの足音。

今のところ、すれ違う影はない。

体もさることながら、歩幅もかなり小さくなってしまったラブラドールに合わせて、ハクレンはさり気なくゆっくり歩いていた。


『しかし、ヒントもなしにただ闇雲に探し回ると言うのは余りに果てしのない話ですね…』

『そうだね。でも朝起きた途端にこれだったからなぁ…』

『寝る前までは何もなかったんですよね?寝ている間に変わったこととか、誰かに何かされた記憶とかはありますか?』

『そんなはず……』


だって、昨晩はカストルと一緒に寝てたのだから。


思っても、口にする事は出来なかった。
それに、カストルがそんな事する筈がない。


『…ラブラドール司教?』

『あっ…、ごめん。』

『大丈夫ですか?』


そんなやりとりをしていると、曲がり角の向こうから足音が聞こえてきた。


『マズい…!ラブラドール司教、俺の後ろに隠れて下さい。』

『うんっ…』

ラブラドールは言われるまま、ハクレンの後ろに隠れた。
今のラブラドールなら、細身で、昨日までの自分と差ほど変わらない体型ハクレンの後ろにいるだけで、大部分を隠す事が出来た。


コツコツコツー…


足音は、ついに曲がり角までやって来た。


『っ……』

ぎゅっ、とハクレンの服の裾を掴み、ラブラドールは目を瞑った。






『あれっ、ハクレン!探したんだぞ!?』

『テ、テイト…?!』


へなへなと、ハクレンの体から力が抜ける。

しかし踏ん張って、


『すまない…ちょっと、急用が出来てな。』

『こんな朝っぱらからか…?……ん?その子、どうしたんだ??』



見つかってしまった。

まぁ、完全に隠し通せるとはハクレンも思ってはいなかったのだが。


『この子はっ…、その、礼拝に来た子で……迷ってしまったんだそうだ。』

『ハクレン、』

『な、何だテイト…』

『お前、嘘下手すぎ。』

『っ…!!』


明らかに目が泳ぎ過ぎ、息も荒いハクレン。
おまけに変な汗まで出ている。

これではテイトでなくても怪しんでいた事だろう。


『俺はお前の味方だぞ。って事は、この子にとっても味方だ。何故嘘を吐くっ!?』

『解った…。テイト、嘘を吐いてすまなかった。しかし、事情が事情で…』


どうしようかとハクレンが戸惑っていると、また服の裾をひっぱり、ラブラドールはハクレンに耳打ちした。


『…テイトくんなら、大丈夫だよ。』

『良いんですか…?』

『うん。無理に隠しても怪しまれるだけだよ。』

『そうですね…!ではテイトにも話して協力して貰いましょう!!』

『ハクレン、お前何こそこそしてんだよっ』


テイトの質問を華麗に無視し、ハクレンは自分の前にラブラドールを押し出した。

はらり、と顔を隠すために覆っていた布が解ける。


テイトは自分の目の前にいる、自分よりも小さいその子供を見て驚愕の余り目を丸くした。


やはり、皆最初は何が起きたのか解らない、または目の前の現実が信じられない様だ。


『ラ、ラブラドール…さん…!?』


テイトはハクレンと全く同じ反応をした。

そして先ほどと同じ様に、ラブラドールは今朝自分の身に起こった変化をテイトに話して聞かせた。




『なるほど…』

『お前、ちゃんと理解出来たのか?』

『ばっ…!!信じられないけど、状況把握ぐらいは出来てる!!』

『ありがとうテイトくん。』


そう言ってにっこりと微笑んだラブラドールを見て、テイトはやっぱりいつものラブラドールさんだな、と思った。



体の大きさを除いては。


『事情は解った。でもどうやってラブラドールさんを元に戻すんだ…?』

『それを今考えているんだ!』


(ああ、なんかこの子たちはこの子たちでまた喧嘩が始まりそうだなぁ…)


今にも口喧嘩に発展しかねない二人を様子を見て心配しているあたり、心だけは【今】のまま変わってないんだな、とラブラドールは密かに安堵した。



その時。



不穏な空気が辺り一帯を覆う。


嫌な感じが、する。



『む…!?』

『気をつけて!何か嫌なモノがやって来るー…』

『な、なんだこの空気はっー…』


ドッー…


テイト、ハクレンとラブラドールの間をザイフォンが貫く。

反射的に三人はそれをかわしたが、反対側に避けるしかなかった為、二人と離れたラブラドールの背後に、黒い影が現れた。


『見ぃーつけたっ♪』


黒い影の一つ、大きい方がラブラドールを捕らえて離さない。


『なっ…!?』


大きな影はラブラドールをいとも簡単に抱き抱えたが、その扱いは、いつも自分の主にしている様に丁寧だった。


『待てっ!!』


追いかけようとする二人の前には小さな影が立ちはだかった。



『アヤナミ様からの命令だ。預魂を生きて連れて来いとー…』

『何っ…?アヤナミだと?!』

『邪魔はさせないよ!ハルセっ』

『はい、クロユリ様。』


ひょい、とまた同様に、左手にラブラドールを、右手一つでクロユリを抱き抱えるハルセ。
クロユリは、すぐさま呆気にとられているテイトたちに向けてザイフォンを放った。


『くっー…、ラブラドールさんっ…!!』


爆風に紛れ、煙が消えた時には二人は姿を消していた。
ラブラドールを連れ去って。




『大丈夫ですか!?凄い音がしましたがー…』


騒ぎを聞きつけて、カストルとフラウが駆けつけたが、一足遅かった。


『ラブラドールさんが…』

『あのラブを見たのかくそガキ?!』

『今はそんな事言ってる場合じゃないっ!!ラブラドールさんが、連れ去られたんだっ…』

『何ですって!?一体誰に…』




『ブラックホーク…。指示をしたのは、アヤナミだ…』











『ご機嫌だね、アヤたん♪』

『………もうすぐ手に入る…』

『…何が?』

『………』

『独り占めは狡いよアヤたーん!…俺にも楽しみ分けてくれる??』



『駄目だ。』










にやりとアヤナミの口元が緩む。
これから待っている事態を、空の上のラブラドールは知る由もない。


あきゅろす。
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