[携帯モード] [URL送信]
「もうっ…カストル」
 そのまま無意識にこぼしかけた愚痴が、続けて聴こえたカストルの声でかき消される。
「おや、どうしましたかウィーダ君?」
「えっ」
 見れば、一緒に立ち去るかと思ったウィーダが一人、こちらを凝視したまま動こうとしない。カストルもそれ以上は問わず、ラブラドールに至ってはショックで再び固まってしまったために、しばしの沈黙が落ちた。
 教会を飛び交う鳥たちの羽音と囀りだけが、朝陽と共に庭園を満たす。

「う、ウィーダ君…」
 ややあって、沈黙に耐え切れずラブラドールが口を開いて。
 その困惑が滲む声同様、しんなりと眉を寄せるラブラドールの顔を見つめ、そして微笑を浮かべたカストルに視線を移して、ウィーダがぽつりと感想を漏らす。

「お二人は、まるで…ご夫婦のようですね」
 新聞を広げてくつろぐカストルと、その傍らで一見さあ食事とお茶を給仕しようかというラブラドール。
 ぴったりと寄り添う二人は、そう、まるで……。



「夫婦?」
 そんな聴こえた単語と真顔を見比べて、「おやおや」と笑みを深めるカストルだ。
「ふむ、そうきましたか」
「ふ……?え、ええっ!?」
 そうして、やっぱり鈍い反応を披露しつつもラブラドールが素っ頓狂な声をあげるに至って。ウィーダも思わずこぼした問題発言をようやく意志したものか、たちまち真っ赤に顔色を変える。

「ししし失礼しましたっ!!!」
 叫ぶなり、回れ右で文字通り一目散に駆け去っていく背中に、堪えきれずカストルが笑い出す。
 一方でウィーダの言うところの、呆然と見送っていた『奥様』はといえば、
「もうっカストル!子供たちの前で何するの!?」
 とすっかりご立腹だ。未だ捕らわれていた腕をようやく引き剥がすと、恥ずかしさと文句に頬を染め、大きな瞳で『旦那様』を睨みつける。

「だって、私の知らない処で怪我していたでしょう?」
「そ…れはそうだけど、こんなの大したコト無いって言ったのに!」
「でも、どんな傷でも甘く見てはいけませんよと常日頃、貴方も子供たちに注意している筈ですよ」
「それ…もそうだけどっ」
 何も口付け無くたって…と、むくれた顔さえ可愛いらしいラブラドールに、
「それに夫婦だそうですから」
 にっこりと笑って、先ほどの続きを蒸し返すカストルだ。

「な、何を言ってるの…そんなこと…」
「あるでしょう?夕べも私たちは愛を交わした仲だ」
「でも僕は女の子じゃ…ひあっ!?」
 もはや事実婚と言っていいですよねと、腰に回した手を意図的に撫であげてみせるカストルに、びくんとラブラドールが身を震わせる。

「ふふ、敏感ですねぇ」
「朝から止めてよ、カストルっ…!?」
「おや、この続きをしようとは別に言っていませんよ?ラブ」
 今のところはですね…と飄々と囁かれて、全く話を聞いてくれない恋人に呆れたのか諦めたのか、大きな溜め息を吐いてラブラドールが強張った躰から力を抜いた。

「解ったから、僕らも朝食にしようよ…君こそ遅刻しちゃうよ」
「そんなものより、貴方が最優先です」
「また、そんなこと…僕だって、君とずっと居たいけど…でも」
「認めてくれますか?なら、いっそ本当に夫婦になってみるのはどうでしょう。そうすれば朝から二人きりで堂々と出来ますねぇ、子供たちにも隠す必要が…」
「カストル」
 ようやくここへ来た本来の目的、持参した朝食を並べ始めるラブラドールに、尚も楽しげに声をかけるカストルであったが、低く名を呼ばれてさすがに語尾を止める。

「ラブ?」
「黙ってて」
 見交わす瞳の底に本音を探りあって、どちらともなく顔を寄せる。
 見詰め合ったままそっと、二人きりの朝には欠かせない口付けが交わされた。小さな水音を立てて離れようとするラブラドールの動きを、唇への甘噛みと後頭部に回された手が阻む。

「ん…っ」
 腰をかがめた不安定な姿勢のまま思いきり貪られて、あえかに紡ぐ声が鳥たちの歌と交じり合う。
「ふ…ぁっ」
 酸欠と官能で次第に痺れていく思考を何とか叱咤し、ラブラドールが肩に置いた拳でとん!と叩くと、ようやくカストルが絡めていた舌を解放した。

「ちゃ…んと、二人きり、になったでしょう…?」
 乱れかけた息を整えつつ、子供たちと戻って来た時から感じていた不満を正したのだと訴えるラブラドールの言葉に、
「ええ…良く出来ました、これで今朝は赦してあげましょう」
 応じるカストルからの熱い眼差しと囁きが、なおも夕べの続きのように濃密な空気を生む。

 だが、ここで流されてはせっかく身をもってカストルの独占欲と嫉妬を宥めた意味が無いと、ラブラドールは上気した頬のままで横を向き、今度こそ食事の支度に取り掛かった。
「でも後で、デザートもしっかり頂きますよ」
 かちゃかちゃと茶器や食器の音に混じって、そんな声も聴こえてきたが。

「…そうやって仕事に遅刻なんかしたら、フラウのこと言えなくなるよっ」
「ははは、確かに貴方との口付けは幾ら欲しても足るを知りませんからねぇ。それこそ妻に娶ったら毎朝、遅刻常習犯になりそうです」
「だから、女の子じゃないし司教だし無理だってば!」
「でも事実婚でしょう?」

 普段はもの静かなラブラドールも切り替えし、再び堂々巡りな、だが暖かな言の葉が花びらと共に宙に舞い、優しく庭園に降り注ぐ。


 これもまた愛の睦言――恋人達の、ある日の始まり。  
 
***
相互記念に空さんから小説を頂きました!
「夫婦なカスラブ」とお願いしたのですが、まさに夫婦、甘々で幸せな夫婦が読んでいて本当にほのぼのしますww
テイト、ハクレン、ウィーダくんたちの反応が個人的にツボでした!笑

そして最後のドSなカストルさん…wwwキュンキュンさせて頂きました///ラブたんの反応も可愛いですw

空さんの文章力や描写の凄さは本当に尊敬します!
この度は相互&素敵な作品をありがとうございました。
これからも宜しくお願い致します。 
 



あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!