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『ただ君と』





誰もいなくなった体育館で、君は僕を呼んだ。
それは風のふく、静かな夜。


部活を終え、少々脚がふらつくのが分かった。夏場の練習は、流石に身体が嫌でも応えてくれる。

着替えの途中で、君の声を聞いた。
Yシャツに腕を通しながら、体育館に出ると、遠くで手を振る姿を見つけた。
よく見るとステージに座っている。
楽しそうにまた僕の名前を呼んで、手招きされた。

バッシュに履き直して、君のいるステージまで歩くことにした。


「着替えないの?」と聞くと、「後でね」と笑顔で返された。
足を楽しそうに揺らしながら、君の手が僕を誘う。

「何してたの?」
「ちょっと、考え事をね」
「…随分楽しそうだけど」
「まぁね」
君はそう言って、また笑った。

隣に座ろうかと思ったが、あえて下にただ立って並んだ。
少し君の位置が高くて、つい違和感を感じてしまった。


ねぇ、と君の顔が降りてきて、目線が同じ位置になる。
「おぶってモキチくん」
「……ぇ」
「部室まで。ね?!」

僕は、この笑顔に敵わない。


ステージの上から、そのまま僕の背中に君は降りてきた。
思いの他軽くて、逆によろけそうになってしまう。

ゆっくり踏み出して、僕は問う。
「…今日はどうしたの」
「おぶってなんて頼むから?」
「…うん」
「―見てみたくて。」

小さな腕が、静かき僕の首へ回った。
殆ど君の身体は、背中に預けられる。

「モキチくん、大きいじゃん」
「…うん。ごめん」
「…だから、こうして同じ高さになれたら、同じ場所見れるかなって」
「―やっぱり違う?」
「うん。小さいと視野も見え方も狭いから」

君の言葉が嬉しくて、泣きそうだった。

今まで気付きもしなかった僕を、許して。



「じゃぁいつか、車谷くんの位置からも見たいな」
「低くて驚くよ、きっと」

君は何気なく言葉にしたけど、僕には違った。

もう少しで部室の前に着く。
思ったより頭が働かなった。

「車谷くん」
「んー?」
「眺めのいいところが良いよね」
「うーん…どこがあるかなぁ」


これからもずっと、君と同じ世界を見て行きたい。


「―空、好きだよ」
「…え?わっ、何急に!」
「んー?お返し」
「や、…うん。僕も好きだよ…?」



君が それを望むなら。




end









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