夏の終わりに
寄り道をしていた。
午前中に終わる部活も、たまには嬉しいもので。
だか、そんな自分とは反対に今一つ物足りなさそうにしている車谷という彼。
先生の都合と言われて半ば急いで学校を出たのだから、どうにもスッキリはしていない。それは、皆同じだった。
自分は自転車を引きながら、左隣には彼。
たわいもない話しは自然に続いていた。
部活のこと、家のこと、先輩のこと、夢の話。視線を合わせることはほとんどなかった(出来なかった?)が、見つめる先は同じだったハズである。
遠い遠い、向こうの青空だ。
実は、ここの道、遠回りなんだよ。
僕の一言に、車谷くんはあえて言葉を発しなかった。
見上げられるその表情が、『どうして?』と言っている。
「ちょっと、寄りたい場所があって」
「…そ-なんだ?」
「うん」
「…暑いね」
「うん、暑い!夏も終わるのにね」
「だから、涼しくなるところ、とか」
「―あ!コンビニだ?!」
「…チガウ」
こぼれる笑顔につれられて、自分も自然に笑顔になってる気がした。
ようやく辿り着いたその場所。
風が心地よく2人の頬を撫でていく。
「すごい!坂だ!」
「うん。大きいでしょ?」
ゆったりとした緩い坂道。小さい頃によく通っていたこの坂は、自転車で下るのを楽しんだハズだ。
長い長い道が、下るときだけ別世界に感じられた。妙に久しぶりだった。
「――モキチくん?」
「…はい」
「あの、行こう!下ろう!後ろ乗っていい?!」
嬉しそうな笑顔を傍に、自分のかばんを籠に押し込む。
日光で熱の帯びたサドルに跨がると、すぐに後ろの金具に彼の足が掛けられる。
楽しそうな声が、頭上から聞こえた。
気が付くと、2人を乗せた自転車は坂を下り始めていた。
少しばかり、ブレーキを握る掌に汗が滲む。
肩に添えられた彼の手が熱い。
ただ慣れない2人乗りにブレーキを弱くかけていく。会話はない。
景色がとてもよくて、すぐ後ろでも同じ場所を眺めてくれていることを期待した。
ただ、それだけ。
坂の半分はあっという間に過ぎていく。
思わず深呼吸したくなるほど、気持ちのいい風を切っていた。
それでもこの自転車は進んでいる。前へ、動いている。
この一瞬を惜しんで、ブレーキを力いっぱい握りしめてもいずれは、下りきってしまう。
坂を下り終われば、すぐ先に交差点が待っている。同時に別れ道を示していた。
もう、坂は下りきる。
肩にある手に、小さく力が入った気がした。
もう 下りきる。
僕は、交差点で彼とすぐに別れなくていい言い訳といい都合を考えていた。
end
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季節外れです(堂々)
一応付き合ってる設定は
したつもりはないですが
怪しいカンジになりました。
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