『それを愛というならば』
「おい上木」
後ろの方から低く呼ばれたその声は、残念ながら身体がすぐ反応した。
(間違えるはずがないという意味)
「はい」と振り返って返事をした。
ちょっと来いなんて険しい顔で言われて、不機嫌なことを察知する。
朝メシ後、歯磨き前のこと。
角を曲がって目立たない場所へ連れていかれると、先ずは溜め息。
「あの」
「不破が昨日部屋に来たんだよ」
白石先輩は、僕の言葉を掻き消す。
「泣きついてきたんだよ。あいつが」
「……」
「おまえを好きになっちまったって、どうしたらいいかわからねぇって」
何も、何も出なかった。
あぁ そうですかなんて、言えたらずっと楽なのに。
「一晩中だ。ふざけんな」
「――…ッ」
自然に俯いた顔は、もう上げられながった。先輩の目が全てを、見透いているようで。
「どうせ分かってんだろ、アイツのこと。俺の睡眠返せよ」
すでに呆れ返った様子の溜め息を また聞いた。
「…自分に、何ができますか」
(教えてください)
「………部活来いよ おまえ」
頭を軽く押されて、その手はそのまま離れながら僕の髪の毛を乱していった。
にじむ涙が、足元をぼやかした。
頬を伝わずに真っすぐ落ちていく。
不安で不安で しょうがなかった。
何かの間違いだと自分に言い聞かせた。
食事も上手く喉を通ってくれない。
不安で不安で どうしようもなかった。
だから、言おうかと思っても結局、白石先輩には言えなかった。
(自分も、ヒョウと同じことを横山先輩にしてしまいました)
そして僕はぐらつく膝を押さえて、走り出す。
抑えられないこの想いを
人は罪と呼んだとしても。
*―――――――――
直接的には豹は出せませんでした。
なんていうか、豹鷹ではない気が
漂ってますが豹鷹だと
言い張りますすみません。
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