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*この手をすり抜ける



  04 知られてしまった



円に教えてもらった空の家までの地図。

何度も引き返そうか、行くべきかと葛藤しながら、終いには茂吉の逢いたい気持ちが打ち勝った。



しかし門の前で彼の足はぴたりと止まる。

表札を見ながら不安を過ぎらせ、やがて、茂吉は携帯を取り出しコールボタンを押していた。
もちろん今電話をする相手はただ一人。

鳴り止まない呼び出し音に、見舞いの袋を握っていた手が汗ばむ。


「な!なんだいアンタ?!」

目の前のドアが開いたと思うとすぐ、悲鳴に変わる声を浴びた。同時に茂吉も驚き、1歩後ろへ引いて足がすくむ。

「あ…こ、こんにちは」
茂吉は極端に小さい家の主を見下ろして頭を下げた。
「アンタ大きいねぇ?!空の友達かい」
「…お世話になってます」
このとき既に茂吉は空回りしていた。

「まぁ入んなさい。あ!頭に気付けるんだよ!」と、前に立つ女性。
何となく、空との血の繋がりを感じたとき、彼からうっすら笑みが零れていた。


「熱がなかなか下がんなくてねぇ」
そう言って、祖母と名乗った人は笑った。

「バスケするんだって聞かなくて、無理矢理寝かせてたんだよ」
「…車谷くんらしいです」
「今日は安静させてんだ。アンタが来てくれて、喜ぶと思うよ」

ニッと笑ってくれた女性は、空の部屋を教えると、"ゆっくりしていくといいよ"と、背を向けながら茂吉へと伝えられた。

はたして彼の御礼の言葉は届いていたのか。



部屋の前で深呼吸をして、茂吉はドアにノックをした。
返事はなく、一声かけて中に入ると、ベットに寝る空の頭が目に入った。

部屋は片付いており、祖母の出入りの様子が見えている。
軽く見渡してから、ゆっくりとベットの枕元辺りの横に座った。緊張のあまりに、茂吉は正座しか出来ていない。

熱は下がったと聞いて安心してきたが、額には冷えピタが貼られている。

静かに呼吸する空は、少しばかり茂吉の方に顔が傾いていた。


布団からチラリと見えた手に、茂吉の手が招かれるように吸い付いた。大きな掌が、小さな手を包む。

彼の温かさと、確かに恋しい人を傍に感じられる幸せに、茂吉は目を閉じ顔を伏せた。
熱く熱く込み上げてくるものを抑えようとすると、必死に沈めた頭も、身体にさえ熱がでた。



茂吉は静かに、空と共に眠りについた。





空が目を覚まし、茂吉の存在に気付いたのは、しばらく経ってからのことだった。


重ねられた手から、空は淡く淡く茂吉の想いを知ることになる。










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