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笑い声が聞こえる教室を後にした黒子は珍しく廊下を走り抜け、階段を駆け下りる。
会いたいと思っていた。
それも出来ることなら今日。
誰かが黒子の誕生日を覚えて、連絡をとってくるかと思っていたが結局黒子の携帯が鳴る事はなかった。
だからもう今日は誰にも会えないと思っていたのに、彼らは黒子の元に来てくれた。
上靴からローファーへと素早く履き替えるとラストスパートをかけるように黒子は走り出す。
雪が降ると天気予報で言っていたが確かに校舎から出れば突き刺すような寒さが全身を覆う。
こんな寒さの中、ずっと待たせていたのが申し訳なくて後悔しながら走っていれば聞き慣れた声が黒子の耳に届く。

「あーさみぃな、て言うかさつきも緑間もよくそんな甘ったるいもん飲めるな。」

「寒いからこそ温かくて甘いココアが一番なんじゃない。」

「おしるこの美味さもわからないとは可哀想なのだよ。」

「一々ムカつく言い方だな、お前等。緑間はともかくとして、さつきは太ってもしら、いてっ!!」

「女の子になんこと言うのよ、大ちゃん!!」

「まぁまぁ、桃っち落ち着いて…。」

「今のはどう見ても青峰がいけないのだよ。」

聞こえてくる声はやはり黒子が頭に思い浮かべていた人物達そのもので自然と足は速くなる。

「て言うか桃っち、スカートって寒くないんスか?何だったらジャージ貸すっスよ?」

「あまり体を冷やすのはよくないのだよ、桃井。」

「ちょっと寒いけど大丈夫だよ。せっかくテツ君に久しぶりに会うのにスカートの下にジャージって可愛くないしね。」

「心配すんな黄瀬、緑間。こいつスカートの下に毛糸のぱんつ、」

「大ちゃん!!」

「いってぇな、だから暴力に訴えるのやめろよ!!」

「普通そういう事言わないものでしょ!!少しはきーちゃんとみどりんみたいな優しさを身につけたらどうなの!!」

「青峰、お前本当にアホなのだよ。」

「うん、女の子相手に今のはないっスわ〜。」

繰り広げられるコントのような会話。
それに懐かしさを覚えながら黒子はその人物達の名前を呼ぶ。

「黄瀬君っ、緑間君っ、桃井さんっ、青峰君っ。」

黒子が呼べばそこにいたキセキ達は驚いた顔をして振り向く。
やっぱり教室から見た人物達はキセキ達で間違いなかったんだと黒子は荒い息のまま安堵する。
驚いている面々の前でようやく足を止めると限界以上で走っていたため、呼吸がなかなか上手く出来ず整えるのに必死になる。
言いたいことがあるのに伝えられないもどかしさが更に呼吸をし辛くし、悪循環に陥っていたのだが周りにいたキセキ達がそれに気付いて黒子の近くに寄ってくる。

「て、テツ君大丈夫!?ココア飲む?」

「おしるこもあるのだよ。」

「緑間それ餅入りだろ。喉につまったらどうすんだよ。」

「あ、俺水持ってるっスよ。」

言いながら黄瀬はバックの中を漁りながらミネラルウォーターを見つけると黒子へと差し出す。
桃井達からの好意もありがたいが、甘いものよりただの水を欲していた黒子は黄瀬から差し出された水を受け取る。

「ありがとう、ございました。」

「大したことじゃないんで気にしなくっていいっスよ。」

受け取った水を飲みながら息を整えた黒子は、お礼を言いながら黄瀬に水を返す。

「どうして連絡をくれなかったんですか?」

息を整えてキセキ達を見て、開口一番に出た言葉はそれだった。
その言葉にキセキ達は顔を見合わせ苦笑を浮かべる。

「誠凛って一人一人の誕生日をみんなでお祝いするって前に言ってたでしょ?だからテツ君も絶対に祝われてるってわかってたから連絡入れて邪魔するのも悪いから待ってようってみんなで決めたんだ。」

「だからってこんな寒い中待つなんて…桃井さんは女の子なんですから体を冷やしたらいけませんよ。」

黒子が言いながらカバンの中からカイロを取り出して渡せば、桃井は嬉しそうにお礼を言って受け取る。

「そう言えば、テツ君出てきて大丈夫なの?まだ終わってないんじゃない?」

「そうなんですけど、火神君と先輩達がもう終わるから気にするなって言ってくれたんです。どのくらい待っていたんですか?」

「どのくらいっスかね?」

「そんなに待ってないよ。」

「ま、一番最初に来た黄瀬は30分くらい待ってたんじゃねぇの?」

「そう言う青峰こそ、わざわざこの寒さの中長い時間待たせておかないように態と桃井をおいて黄瀬の次に来たではないか。」

「え、大ちゃんあれ態とだったの?」

「桃っちには優しいんスね。まぁただ単に黒子っちに早く会いたかっただけかもしんないっスけど。」

「お前等黙れ。」

言い合うキセキ達の言葉を聞きながら、黒子は火神に言われるまで黄瀬達の存在に気付かなかった事を悔やんで険しい顔をする。

「すみません、僕全然気付かなくって。」

「テツ君が謝ることないよ。私達が勝手にやっている事だし。」

「そうっスよ。ただ驚かせたかっただけっスから。」

「ですが、」

寒い中待たせていた事が気にかかっている黒子のポケットから鳴った電子音。
それは電話を意味する音で黒子は誰からだろうと首を傾げてディスプレイに表示された人物の名前を見る。
そこに表示された『赤司征十朗』と言う名に黒子は携帯を見つめたまま固まってしまう。

「あか、し君?」

呟いた名にキセキ達は驚きもせずにやっぱりと言うような顔をする。

「あいつはエスパーか。タイミングよすぎだろ。」

「黒子っちに会ったらこっちから赤司っちに電話かけるって話だったんスけど、まさか赤司っちからかけてくるとは…。盗聴でもしてんじゃないっスか。」

「けれど赤司だからと言えばそれはそれで納得するのだよ。」

『確かに。』

変なところで見解が一致する緑間達をよそに黒子は鳴ったままの携帯のディスプレイを開いて見つめる。
普通通話ではなく、映像もともに送られてくる通話に設定されているらしいそれに、一度もそのように使った事のない黒子はどう出ていいのか戸惑う。

「これっていつもの通話ボタン押せばいいんですか?」

「うん、大丈夫だよ。」

「ちょっと出させて頂きますね。」

青峰達の話から赤司が電話をしてくるのはわかっていたらしいが、黒子は一言断りを入れてから携帯の通話ボタンを押す。

「お久しぶりです、赤司君。」

通話ボタンを押せば画面には赤司が映る。
それに少し驚きながら当たり障りのない挨拶をすれば赤司は黒子の反応に苦笑する。

『久し振りだねテツヤ。そんな驚くこともないだろう。』

「こう言う電話の使い方はあまりした事がないので驚きますよ。」

『まぁそうだろうね。僕もこんな電話は初めてだよ。そうだ、大輝と涼太。』

思い出したように青峰と黄瀬の名前を呼ぶ赤司。
普通の声色だったが呼ばれた二人は嫌な予感を感じていた。
黒子もいらない空気を読んでわざわざ二人に画面を向ければ、そこにはいい笑顔をした赤司がいた。

『好き勝手言ってくれたようだね。今度会った時は覚悟してるんだよ。』

「だそうですよ、青峰君、黄瀬君。」

「ちょ、何でっスか!?」

『覚えがないとは言わせないよ。』

「お前やっぱり盗聴かなんかしてるだろ。」

『馬鹿だな、大輝。そんな事できる訳ないだろう。』

じゃあなんでわかった、なんて言える強者は誰もいない。
全く信じられない赤司の言葉だが、触らぬ赤司に祟り無し。
青峰と黄瀬はこれ以上墓穴を掘らないように口を噤む。
そんな昔と変わらないやり取りに黒子は頬を緩める。

「それで、電話の用件は何ですか?」

『あぁ、そうだったね。さつき達は敦に連絡をとったのかい?』

「紫原君ですか?」

「今呼び出してるからちょっと待って…あ、ムッ君久し振り。」

紫原の携帯と繋がったのか、桃井は自分の携帯の画面を黒子達に向ける。
その画面には少し動作は遅いが紫原の顔が映っているので、赤司同様音声だけではなく、映像も一緒に送られているのがわかる。

『みんな久し振り〜。あ、そっちは雪降ってないんだ。』

「でも降りそうなくらい寒いですよ。秋田は凄い雪の様ですが大丈夫ですか?」

『う〜ん、俺は元々こっち住まいじゃないから大丈夫じゃないけどそうも言ってられないし。自分で何とかしなきゃだから何だかんだで頑張ってるよ。』

「やっぱり大変ですよね。」

『でもまぁ、機会があったらこっちにおいでよ。黒ちん雪好きでしょ?一緒に雪遊びしよう。』

「そうですね。機会があったら是非。」

電話越しであっても変わらない紫原の緩い雰囲気に黒子は笑みを浮かべながら返事を返す。

『もし敦のところに行くなら僕にも連絡しなよ。一緒に行くから。』

「なんで赤司君がついてくるんですか?」

『テツヤと一緒にいたいからに決まっているだろう。さて、これ以上話し込んでテツヤ達が風邪を引いてしまうといけないから本題に入ろうか。テツヤ、この携帯を誰かに渡してくれるかい?』

サラリと告白まがいな事を言った赤司は固まる黒子に気にすることなくそう告げる。
そこでやっと黒子も電話の意図を聞いていなかったと気付き、赤司に言われた通り近くにいた黄瀬へと携帯を渡す。
赤司と紫原は電話越しだが、久し振りにキセキ全員と対面しながら黒子は何となくキセキ達がこうやって一度に介した理由をわかっていた。
自惚れているかもしれないが、一つしかない理由に黒子は既に目頭が熱くなってくるのを感じる。

『テツヤ、まだ何も言ってないよ。』

「わかって、ます。」

いつも真っ直ぐな黒子の目が段々と水の膜で覆われてきている。
そんな黒子の感情の起伏に気付いた赤司がからかうように声をかけたのだが、そのせいで黒子は堪えていたものが崩れそうになり、片手で顔を覆う。

「おい赤司、勝手にテツを泣かすなよ。」

『別に泣かしたくて泣かしたわけじゃないよ。』

「お前が余計なこと言うからだろ。」

『事実を言ったまでなんだけどね。』

険悪ではないけれど、少し気に入らないと言った青峰の雰囲気に黒子は少しだけいつもの調子を取り戻す。
ゆっくりと深呼吸をして、肺に冷たい空気を入れれば身が引き締まった気がして、顔を上げる。

「ごめんなさい、もう大丈夫です。」

そう言ってキセキ達を見れば、みんな優しい顔をしている。
昔はよくこんな風に穏やかに過ごしていた事を思い出していれば黄瀬達は持っていたバックの中から何かを取り出し黒子に近づく。
そして、

『誕生日おめでとう!!』

祝福の声と同時に渡される6つのパステルカラーの袋。
それは1年前の今日に下駄箱に入っていた袋と全く同じものだった。

「みんなで渡したかったんだけどムッ君達はそう簡単にこっちに来れないから預かっておいたの。」

その言葉に手元を見れば、赤い袋と薄紫色の袋があった。

『本当は手渡ししたかったからそっちに行ってもよかったんだけど赤ちんに学生の本分を怠るなって怒られちゃってさ。だからさっちん達に頼んだんだ。』

『明日も学校はあるのにお前はどうする気なんだ。』

『まぁ、何とかなるんじゃない?』

「往復の交通費だけで結構かかるんですから僕の誕生日ぐらいでそんな無茶をするのは止めて下さい。」

『なんで?黒ちんの誕生日なんだから顔見ておめでとうって言いたいんじゃん。』

黒子の誕生日を祝うためだけに秋田から出てこようとした紫原に呆れ半分嬉しさを半分感じながらそう言えば、紫原は黒子の言っている意味がわからないと言うように首を傾げる。
こう言う事を普通に言ってのけるので紫原はズルい、と黒子は思う。
他意などなく、ただ黒子の誕生日を祝たいだけだと言う本心からの紫原の言葉に黒子は堪えていたものが溢れそうになる。

『来年は大輝達の学校と練習試合を組みがてらそっちに行けるように根回ししておくから今年は我慢するんだよ、敦。』

『わかってるって、赤ちん。』

赤司がサラリと凄い事を言っているが、実際それは現実のものになるだろうと言う事をキセキ達は想像がついていた。
赤司は京都、紫原は秋田から黒子の誕生日を祝うためだけに東京に来る用事を作るのだからキセキ達の愛は相当重い。
その事を黒子はやっと理解するがそこに嫌悪感はなく、むしろ嬉しくてたまらないとさえ思っていた。
そんな赤司達の無茶な提案を聞きながら両手で抱えているプレゼントを見ていれば今度こそ黒子の両目から自然と涙が零れる。
誰一人誕生日を忘れてはいなかったし、祝ってくれている。
それが嬉しくて黒子は持っているプレゼントを強く抱きしめる。

「あ、りがとう、ございます。すごく、うれしい、です。」

嗚咽混じりの声で今の気持ちを伝えれば涙は止まることなく次から次へと流れていく。
普段滅多に泣く事もないので、感情の制限がうまくいかない。
そんな黒子を慰めるように青峰は優しく頭を撫でる。

「やっぱり泣いたな。」

「あ、たりまえ、です。」

プレゼントを貰えた事も嬉しいが何よりこうやってキセキ達が一緒に祝ってくれた事が黒子には一番嬉しかった。

「きょねん、あんな、ふうに、ぷれぜんともらえて…うれしいの、に、あなたたちに、おれいすらもいえ、なくて。ずっと、ずっと、いいたか、った、のに…あえなく、て…。」

「まぁ去年は、な。会いづらかったし。」

帝光時代、黒子との接触を一番避けていた青峰がバツが悪そうに言いながら慰めるように撫でていたその手で黒子の涙を拭う。

「でも俺があげたリストバンド使ってくれて嬉しかった。」

「きづいて、いたんですか?」

「当たり前だろ。」

「私もタオル使ってくれているの気付いたよ。」

「俺のマフラーも気付いてたっスよ。」

『みんな去年は形に残るもの贈ってたんだよね。俺もそうすればよかったって思ったから今年はまいう棒ともう1つにしたんだ。』

嬉しそうに言う桃井達とは逆に紫原は少し不満そうに言う。
ある意味とても素直な紫原に黒子は涙を拭うと笑みを浮かべる。

「何にしたんですか?」

『まいう棒のストラップ。』

「お前、それはないだろ。」

『えーなんで?』

青峰のもっともなツッコミに紫原は首を傾げ、黒子以外の人間は紫原のセンスにただ苦笑している。

「て言うか、まいう棒にストラップなんてあったんスね。」

『うん、原寸大とミニバージョンの2つ。黒ちんには原寸大バージョンをあげようかと思ったんだけど室ちんに止められちゃったからミニバージョンにしといた。』

陽泉と対戦した事がないキセキ達は室ちんと呼ばれる人物をはっきりとは思い出せないが誠凛と試合をしている所は見たことあるし、火神が手こずっていたのも見ているので何となくこんな顔してたな、ぐらいに頭に思い浮かべる。
そして思い浮かべた氷室にキセキ達は紫原を止めてくれた事を感謝する。

「ありがとうございます、紫原君。あとで携帯に付けますね。」

『うん、おそろいにしようね。』

「テツ君とおそろいなんてズルいよ、ムッ君。」

『じゃあさっちんもつける?欲しいなら秋田バージョン送るよ?』

「え?うーん…。」

黒子とおそろいなのは羨ましいがさすがにまいう棒のストラップとなると話は別だ。
お洒落に気を使う桃井だからこそ踏ん切りがつかない。

「テツも無理してつける必要なんてねぇんじゃねぇの?」

「無理なんてしてませんよ。元々僕の携帯にはストラップなんてついていないし、必要性は感じませんでしたが、まいう棒だったら付けたいです。」

『本当、テツヤと敦の趣味はよくわからないね。』

友達がくれたプレゼントだから無理して付けるのかと思いきや、黒子は純粋に嬉しそうだ。
そう言えば、紫原と黒子は性格的に似ているんだった、とキセキ達は改めて思い出していた。

『さて、伝えたいことは伝えたからそろそろ電話を切るよ。このまままだ話していたいけれど、テツヤ達が風邪を引いたらいけないからね。』

『そうだね。俺らは部屋の中で暖かいけど黒ちん達は違うもんね。』

名残惜しむように言葉を発する二人を見ながら黒子も少し残念そうな顔をするがすぐに笑顔を浮かべる。

「わざわざ本当にありがとうございました。去年も今年も祝えてもらえて嬉しいです。」

『来年は絶対に会いに行くね。と言うか冬休みはそっちに遊びに行こうかな。』

『そうか、冬休みに練習試合を組んでもいいのか…。』

「あの、赤司君。無理だけはしないで下さいね。」

紫原の決意もなかなかだが、恐ろしい事をポロッと言う赤司に黒子は止めることを諦める。
赤司が考えていた事で通らなかった事など何一つないからだ。

『それじゃあね、黒ちん。さっちん達もまたね。』

『風邪には注意するんだよ、テツヤ。大輝達もね。』

「僕たちもそうですが、赤司君も紫原君も気を付けて下さいね。」

「赤司に言われなくてもわかってるっつーの。」

「て言うか俺らはついでっスか。」

「昔からバカは風邪を引かないと言うのだから黄瀬や青峰の心配はいらないのだよ。」

「喧嘩なら買ってやるぞ、緑間。」

「俺だって風邪ぐらい普通にひくっスよ。」

「バカな二人は置いといて、ムッ君も赤司君もまたね。」

緑間から名指しされた二人は怒るものの、赤司も紫原も気にすることはない。
最後まで騒がしいのは帝光の頃から変わっていない。
懐かしむ程年をとっていないが、変わらない事がどこか嬉しく感じながら二人は別れの挨拶をして通話を終わらせる。
通話が切れるとともにあれだけ騒がしかった場は一旦静かになる。
それに寂しさを感じながら黒子は黄瀬から自分の携帯を受け取ると大切にするように携帯を握りしめる。

「なにしみったれた顔してんだよ。」

「…以前なら顔を見て話せていたのに、本当に二人は遠くに行ってしまったんだなぁ、と思いまして。」

「遠くと言っても別に外国に行った訳ではないのだよ。」

「それはそうですけど…。」

「ま、赤司っちの事だからサクッと春休みに練習試合組んでこっちに来ちゃうんじゃないっスか?」

「赤司君ならやりかねないわよね。」

帝光時代に黒子がキセキ達の前から消えていても、それでも学校に行けば誰かしらはいた。
今みたいに電話が精一杯の距離ではなかった。
緑間の言うとおり確かに国外にいるわけではないし、3時間もあればどちらにも会いにはいける。
それはわかってはいるけれど、こうやって少しずつ赤司達とだけではなく青峰達とも離れていってしまうのかと思うと黒子の心に暗い陰が落ちる。
別々の道を歩き始めたのだからいつまでも一緒にいられないのは当たり前の事なのに、結局一人だけ立ち止まっている。
そんな自分を情けなく思っていれば青峰が黒子の頭を軽く叩く。

「お前は悩むのが好きだな。」

「好きなわけないでしょう。」

「だって簡単な話だろ?中学の頃はまだガキだったけど、今は何にも出来ないガキじゃねぇんだから会おうと思えばいつだって会えるだろ。それこそ、誰がどこにいたって。」

「そうっスよ、黒子っち。俺これでも今日は神奈川から出てきてるんスから。」

「俺たちも同じ東京でも別々の場所にいるがこうやって集まれているだろう。心配なんて必要ないのだよ。」

キセキ達は何でもないことのようにそう黒子に伝える。
成長して別々の道を歩むのは仕方がないが、子どもではなくなるのだからどんな道だって自分で選択をして歩む事が出来るようになる。
事実、黒子達はバラバラの高校に行ったがこうやって集まれている。
いつの間にか、立ち止まって嘆くだけの無力な子どもではない自分に黒子は漸く気づく。

「そうですね。当たり前の事なのに忘れてました。」

「お前ってたまにそう言うとこが抜けてるよな。」

簡単な事を小難しく考える黒子に苦笑しながら青峰は黒子の頭をくしゃりと撫でる。
青峰に言い当てられるのは悔しいが何も言えずにいると、視界に白いものが入ってくる。

「あ、雪が降ってきたよ。」

「本当っスね。」

「どーりで寒いわけだよな。」

「天気予報通りなのだよ。」

灰色の空からゆっくりと降ってくる雪。
黒子が空を見上げ雪を見ていれば、突然視界に入る傘。
誰がさしてくれたのか振り向いてみれば意外にも緑間が傘をさしてくれていた。
一番早く傘が開けたので一緒にいれてくれたようだが、その顔はどこか堅いままだ。
けれどこれが緑間なりの優しさだと黒子はわかっている。

「風邪をひく前にさっさと黄瀬の家に行くのだよ。」

「黄瀬君のお家ですか?」

「テツ君のお誕生日パーティーをきーちゃん家でしようってなったんだ。」

緑間がさしてくれた傘の下で話を聞いていれば桃井が嬉しそうに答えてくれる。
去年は自分の誕生日など来なければよかったと思っていた。
けれど今年は火神や先輩達と言った誠凛のメンバーにも、会えるとは思わなかったキセキ達にも祝えて貰えそんな気持ちなど感じることはなかった。
離れたくなかったけど離れるしかなかった選択は今でも少しだけ黒子を苦しめるけれど、今はそれで良かったかもしれないと思えるようになっていた。
離れていた時は苦しかったけど、やっとお互いがお互いを認められるようになった気がしていたから。

「行くぞ、テツ。」

昔のように差し伸べられる手。
一年前の面影が少しずつなくなって成長していく自分達。
不変なものなんて何一つないから当たり前の事。
だから黒子は自分も同じように成長し、道を選んで行こうと心の中でそっと誓う。
去年聞けなかった祝福の声に心が暖かくなるのを感じながら、黒子は差し伸べられた手を取ってキセキ達の隣に立つと同じ速度で歩み始めた。



END



》大遅刻しましたが、黒子お誕生日おめでとう!!



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