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ふと視界の端を掠めた白。
そちらを何気なく見れば幸せそうに微笑む花嫁と花婿がフラワーシャワーを浴びていた。
それを黒子は何となく立ち止まって見つめる。
小さな教会から出てきた二人の周りには仲の良い友達と思われるものが数人と親族しかいない。
それ程大きくもない結婚式だったのだろうがそれでも主役である二人と周りにいる人は幸せそうだ。

「おい、黒子?」

名前を呼ばれた黒子はハッとしてすぐに火神の方を見る。
ぼけっと突っ立っている黒子が気になったのか、火神は訝しげな顔をしながら近付いてくるが視界の先に何があるのか確認するとあぁ、と納得する。

「結婚式か。」

「はい、幸せそうですよね。」

火神の視界の先にうつるのは先程まで黒子が見ていたのと同じような光景。
それに火神は珍しいものを見たとばかりに感心している。
普段簡単に見られるものではないからこそだ。
全くの見ず知らずの人たちの結婚式だが、黒子は自然と頬が緩むのを感じた。

「羨ましいです。」

しみじみと呟かれる黒子の言葉に火神は少し考える。
黒子は正真正銘男だ。
これが女の子ならば花嫁に対して言っているのがわかる。
だったら黒子は何対して羨ましいと言ったのか。
見ず知らずの人たちの結婚式なのだから花嫁の相手の花婿と言うわけでもあるまい。
考えてもわからなかった火神は黒子を見る。

「何が羨ましいんだ?」

遠回しに聞くことなどせず、ストレートに聞く火神に黒子はゆっくりと口を開く。

「結婚したら、ずっと一緒にいられるじゃないですか。」

「まぁ、そうだな。」

「いいですよね。形に残るものをして、ずっと一緒にいられるって言うのは。」

言いながら見つめる瞳は優しいもので火神はそんなもんなのか、と思いながら同じように花嫁を見る。
見つめる先の二人は誰からも祝福されて幸せそうだ。
確かにこうやって『幸せ』と言う形を残せて、互いが望む限り傍にいることができるならそれに越したことはない。
自分たちはまだまだ子どもで高校を卒業した後でさえどうなっているのかわからない。
結婚などしたいわけではないが目に見える形は確かに羨ましいのかもしれないと火神は考えていた。

「お前って案外ロマンチストだよな。」

「そうでしょうか?」

首を傾げる黒子に火神はそうだよ。と言って笑うと頭を優しくなでる。

「お前がしたいならしてやってもいいぜ。」

ぽつりと呟く火神の言葉。
それに黒子は目を見開く。
だって話の流れ的に一つしかないから。

「…結婚式を、ですか?」

「それ以外に何があんだよ。」

躊躇いがちに言えば火神は恥ずかしいのかそっぽを向いてしまう。
絶対にそんなことを言ってくれないと思っていたのに。
珍しい火神の言葉を反芻しながら何か悪いものでも食べたか、と心配するように黒子が顔を覗き込めばその大きな手で頭をくしゃりと撫でられる。

「ただしお前が花嫁衣装を着ろよ。」

俺は絶対に似合わねぇ。
そんなことを呟く火神を見た黒子は吃驚しながらも優しく微笑む。

「火神君と結婚式が出来るなら何だって着ますよ。」

微笑みながらも、潤む瞳。
端から零れた涙を火神は何も言わないで優しく拭う。
口約束でしかないことだけれども、黒子には火神の言葉が何よりも嬉しかった。
叶わなくても、馬鹿にしないでそう考えてくれたのならばこれ以上の嬉しいことなどない。

「今は口約束でしかねぇけど、卒業後にはちゃんと形にすっから。だからどうせ叶わない、なんて考えんじゃねぇぞ。」

言いながら、火神は一瞬だけだが涙がこぼれる目元に口付ける。
優しく触れた唇。
目元に感じた暖かさに黒子は思わず涙が止まるのを感じる。

「何だか、今日の火神君は優しいですね。」

「んなことねぇよ。」

黒子の考えていることをわかっているように言葉と態度で示してくれる火神。
叶わないなんてことはないのかもしれない、と黒子が考えていれば火神は黒子の手を優しく握る。

「ちゃんと待ってろよ。」

暗にプロポーズのことを言っているとわかった黒子は握られた手を強く握り返して微笑む。

「わかってますよ。でも、あんまり遅かったら僕から言いにいきますからね。」

遠くから聞こえる祝福の鐘と声。
幸せそうに笑う人たちを見ながら、黒子は右手の温もりを愛しく感じていた。



END


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