気まぐれロマンティック
女の子は好きだ。
柔らかいし、暖かいから。
ふとした仕草が可愛いなって思うこともある。
モテないわけではないから、こちらから誘わなくても向こうが勝手にやってくる。
それをあまり煩わしいとは思わない。
だって男だし。
至って普通に女の子が好きなはずだった。
それなのに、
「黒子っちの事が頭から離れないんスけど。」
「………知りませんよ。」
「人の一世一代の告白をそんな言葉で終わらせる気っスか!?」
「今のって告白だったんですか?」
読んでいた本から顔をあげこちらを見る黒子っち。
その顔はありありと疑いと言う二文字が宿っている。
「当たり前じゃないっスか!!こんなことただの友達に言わないっスよ。」
「黄瀬君ならあり得なくもないなぁ、と。」
あぁ普段の俺の態度のツケがここにきた。
いやそれよりも、俺って黒子っちの中でどんな認識なんだろう。
そう頭を傾げてみてもポーカーフェイスの黒子っちからは何一つ読みとれない。
「改めて、告白の返事は?」
取り繕うように笑顔を浮かべて聞けば黒子っちは読んでいた本をパタリと閉じる。
「と言うか、黄瀬君は女の子の事好きですよね?」
「うん、まぁ。だって可愛いって思うし。」
「じゃあ僕に対する想いは恋愛感情じゃないですよ。」
「それはないよ。だって今近くにいるどの女の子より黒子っちが一番可愛いと思うから。」
「…あまり嬉しくないのですが。」
「俺はその言葉が嬉しくないっスよ〜。」
言い切られて俺はますますヘコんでしまう。
同性から好きと言われて手放しで喜ぶやつなんていないってわかっていた。
だけどやっぱりこうやってはっきり拒絶されると心が痛い。
「ほんと、黒子っちってからかいがいがないっスね。少しは吃驚するところが見たかったのに。」
雰囲気を一変してケラケラ笑って言う言葉は本心ではない。
これ以上言い募って黒子っちとの関係を悪化させるよりいつもの俺らしく今までの事を全部嘘にしてしまおうと思ったんだ。
自分でもズルいとは思う。
思うけど、黒子っちが俺から離れていくよりかはましなんだ。
そう俺が考えていれば黒子っちはじっとこちらを見てため息をつく。
「今までの言葉は全部嘘でいいんですね?」
「当たり前だよ。それとも、黒子っちは嘘じゃない方がいい?」
「……黄瀬君がそれでいいならそれでいいですよ。」
言うと黒子っちは座っていたイスから立ち隣に座っていた俺を見下ろす。
「1つだけ言わさせて頂きますけど、女の子と比べられても僕は嬉しくてありませんから。」
「だからそれは、」
「僕は黄瀬君の事好きですけど、誰かと比べて好きなのではなく、黄瀬君だから好きなんです。」
黒子っちのその言葉に俺は眉を寄せる。
俺は今、何て言われた?
「多分これからもずっと、黄瀬君の事が好きですから。勿論友情と言う意味ではなく愛情と言う意味で。」
それだけ言うと黒子っちは俺に背を向ける。
段々と遠ざかるその背を見ながら俺はさっき黒子っちに言った言葉を思い出す。
『今近くにいるどの女の子より黒子っちが一番可愛いと思うから。』
これは俺なりの告白だった。
だけど女の子と比べて、しかも今近くにいる子より可愛いって下手をすれば嫌味にすら聞こえる。
結局、今いる女の子よりかは黒子っちの方が好きなわけでこれから魅力的な子と出会ったらわからない。
そうも取れるこの言葉のどこが告白だ。
こんな事を言いたいわけじゃないのに。
女だとか男だとか、そんなの関係なく黒子っちだから好きなんだ。
傍にいたいと思ったんだ。
「黒子っち!!」
遠ざかるその背に手を伸ばして。
触れた肩を思いっきり引き寄せて腕の中で抱きしめる。
「…冗談にしてはたちが悪いですよ。」
「冗談なんかじゃない。」
「だって黄瀬君は僕の事を好きではないんでしょう?でも僕は黄瀬君の事が好きなのでこう言う事をされると期待してしまうんですが。」
「だから俺も黒子っちのこと、」
「自分で嘘だと言ったじゃないですか。」
冷たいその声音に俺は数分前の自分を殴りたくなった。
黒子っちと離れたくなくて言った嘘。
本当は自分が傷つかないようにと言ったんだ。
その代償が今、自分に返ってきただけ。
「黄瀬君はただ僕のような人がタイプなだけです。それが残念ながら周りにいる女の子にはいない。だから同じ部活で他の人より長く一緒の時間を過ごしている僕を好きなだけなんです。性格がタイプと言うだけで。」
「違うっ!!」
「女の子と比べているところが証拠だと思います。」
「っ、黒子っちだって俺の事好きなんだろ!?だったら何でそう言う事言うんだよ!!」
好きだと言った。
なのに何でそれを否定することを言うのか。
黒子っちの真意がわからなくて、俺は泣きそうになる。
「…好きだから、です。」
「は?」
「黄瀬君の事が好きだから、僕のことをちゃんとみてほしいから言っているんです。」
「どういう事?」
「女の子と比べての『僕』ではなく、誰とも比べない、ちゃんと真正面から『僕』を見て好きになってほしかったんです。」
段々と消え入りそうな言葉に俺はいつも以上に小さく見える黒子っちをぎゅっと抱きしめる。
「ごめんね、黒子っち。好き、好きだよ、大好き。」
「黄瀬君、」
「俺がはぐらかしてばっかりだったから黒子っちも不安になったんスよね?」
いつでも周りには必ず女の子を置いて。
黒子っちに思わせぶりな態度をして。
でもいざ気づかれそうになると手のひらを返すように一歩引いて。
それを繰り返していた。
そんな中で黒子っちが好きだなんて言っても信じて貰えるわけがない。
不安になるのだってわかる。
だけど、
「黒子っちの事、離したくない。」
これだけは譲れないから。
黒子っちの気持ちが分かったんだ。
手放す気は更々ない。
「俺には、黒子っちだけがいればそれでいいから…。」
言葉にするのは随分時間がかかったけれど伝えたかったのはただこれだけ。
嘘偽りない俺の本当の想いを告げれば黒子っちは俺の腕を掴む。
それに少しだけ力を緩めれば器用にこちらの方を向いて見上げてくる。
急に近付いた顔に吃驚している俺なんて気にせず黒子っちはゆっくりと手を伸ばし俺の頬を包む。
「僕だって同じですよ。」
さっきまでのピリピリとした雰囲気から一変した穏やかな黒子っちの声。
そして珍しく微笑む。
「中々気持ちを掴ませてくれないのでからかわれていると思ったのですが…僕の勘違いだったようすね。」
「俺って好きな子の前では結構ストレートな態度だって言われたんだけど…。」
ストレート過ぎてお前、黒子が好きなのバレバレだって他のキセキの世代達に言われた。
知られて困るわけではなかったから俺の気持ちを明かして、ついでに黒子っちには手を出すな、って釘をさすいい機会にはなった。
「常に女の子を周りに置いて僕にその自慢話をしていたのに?」
「そ、れは、あのー、ちょっとは妬いてほしいなぁって言うか何と言うか…。」
「わかりにくいです。」
「でも黒子っちだってそんな素振り1度も見せなかったじゃないか。」
「十分お見せしてたと思いますが?」
「え!?」
「いくらチームメイトや友達だからと言って、日常でしかも同姓に何の意味もなく抱きつかれたりむやみやたらとベタベタ触れるのを許す程僕は寛大ではないです。黄瀬君だから、許していたんです。」
気付きませんでした?と問われて俺は顔を真っ赤に染める。
確かに鬱陶しそうな顔をされたことはあるけれど黒子っちに拒否されたことは一度もない。
あれも黒子っちなりの気持ちの表現だったんだ。
そうとわかれば頬が緩む。
「俺達、随分遠回りをしてたみたいっスね。」
「そうですね。」
優しく微笑む黒子っちが愛しくて、俺はゆっくりと身を屈めその唇に触れる。
柔らかくて、暖かくて。
触れるだけだったけれども幸せと感じられた。
「ねぇ、黒子っち。」
少ししたら唇を離して、真っ赤に顔を染める黒子っちを見ながら口を開く。
「好きだよ。」
大切な大切な俺の気持ち。
伝えれば、黒子っちも微笑んでくれる。
「僕も、好きです。」
互いに顔を見合わせて気持ちを伝えあって。
心が満たされるのを感じながら俺は黒子っちを優しく抱きしめた。
END
》両思いな黄黒
だけど黄瀬も黒子も別人
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