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孤独の牢の囚われ姫

初めに…リンクが騎士で、最強設定です。あと敬語キャラです。

***

暗い。
湿った空気が体にまとわりつく。体が動かない。気分が悪い。

「…ここは…」

うっすらと眼を開けると、無機質な石畳の狭い部屋が視界に入った。円形の部屋の中心に横たえられた彼女は、依然として妙な浮遊感が抜けないでいた。
なんとか今の自分の状況を確認しようとゼルダは体を起こそうとした。途端に後頭部に激痛が走る。思わず痛みに呻くが、それでいくらか彼女は自身に起こった不幸を、徐々に、そして鮮明に思い出していった。

***

「誰か…誰か助けて下さい!!」

とある森の中をカカリコ村の視察の為に移動中であったゼルダを乗せた馬車の前に、そう叫びながら転がり出てきたのは一人のみすぼらしい女だった。あちこちを擦り剥き、どうやら何かから逃げているような切羽詰まった様子。本来なら貴族――しかも王族の馬車を止めたとあってはその罪は重かろうが、ゼルダは馬車から顔を出して隣を馬に乗って並走する騎士に話しかけた。

「リンク、あのお方の治療を」

振り返る騎士は、金髪の下の碧い瞳を細めて軽く頷く。軽い動きで馬から飛び降り、後続の騎士や馬車を止めると自身はその女の元へと足を進める。
丁度彼が馬車の前の女のところに着いて様子を窺おうと膝を折った時、それは起きた。
突如、左右の森から巨大な爆竹の暴発音が響いたのだ。

人は勿論のこと、馬はその音に驚き興奮状態となり何頭かは乗り手を振り落として前方へと走り出してしまった。そんな混乱状態の最中に、今度は武器をもった山賊たちが森の中から現われて、鬨の声を上げて次々と猛進してくる。その強さを誇るハイラルの騎士たちも、この時ばかりは浮き足立って一方的に山賊に追い詰められていった。

「謀られたな」

唯一混乱の少し離れたところにいた騎士、リンクはその様子を眺めながら深く溜息を吐いた。さっきの女もグルだったらしく、襲いかかってきたので当て身を食らわせて眠らせたが。彼はともかく、それ以外の騎士たちが全く浮き足立ってしまって収拾がつきそうにない。山賊たちは数も多いようで後から後から湧いて出てくる。
リンクはもう一度溜息を落とし、ゼルダの乗る馬車の横まで数人の山賊をなぎ倒して行くと、ひょいと窓から中を覗きこんだ。

「ちょっとやばいですけど、どうします?ゼルダ」

「私のことはいいです。他の皆さんがお怪我のないように…」

馬車の中のゼルダは答えを用意していたかの如く即答した。しかしリンクはその答えに苦笑する。

「いい訳ないじゃないですか。貴方を守る為の護衛ですよ、私たちは」

「では、命令します。リンク、他の皆さんを助けに行きなさい」

「…そりゃないですよ」

リンクは困ったというように頭を掻く。騎士たる彼の仕事はゼルダ姫を護ること。ところが騎士にとって――特にリンクにとって、姫の命令は絶対だった。

「しかたがないから行きますけど…襲われそうになったらすぐに大声で呼ぶんですよ。じゃないと助けに行けませんからね」

「ええ、分かってるわ」

憮然としたリンクをよそに、ゼルダはにっこりと彼を送り出す。リンクは三度溜息を吐き、彼女の命令通りに窮地に陥る仲間の救出に向かう。
王国最強とすら言われるリンクの剣は、瞬く間に戦況を変えた。その働きはまさに鬼神。山賊の全滅も時間の問題かと思われた。が。

「おい…まさかアンタ、ゼルダ姫じゃねぇの?」

護衛の薄くなったゼルダの馬車に、山賊の頭らしき男が入ってきたのだ。卑下た笑いを浮かべながら迫ってくる男に、逃げ場のないゼルダはリンクの名を呼ぼうと声を上げかけて――その声を飲み込んだ。
今リンクを呼べば、彼は何よりも優先して私を助けに来る。もしかしたら、そのせいで助けられるはずの命が失われるのではないか。
その時ゼルダは自分が捕まればより騎士たちに負担がかかるのだということを失念していた。そんな彼女に生まれた一瞬の躊躇に、男は一気にゼルダを押し倒していた。直後彼女の後頭部に激痛が走る。以降、ゼルダの視界は暗転し、現在に至る。

***

「リンク…」

今さら遅いが、彼の名を呼ばずにはいられなかった。今まで幾度となくゼルダの窮地を救ってくれたリンクだが、今回ばかりは愛想を尽かされてしまったかもしれない。声を上げろという彼の忠告を無視し、こうして山賊に捕まっているのは紛れもなく彼女自身の落ち度であるからだ。
故にゼルダは彼の名を呼んだ。助けに来て欲しいのではない。離れてしまった思い人に、その謝罪の念が届くようにと。

しかし彼女の声を聞き届けたのは彼ではなかった。

「これはこれはお姫サマ、お目覚めかい?」

がちゃりと南京錠の開く重々しい音がして、ランプの光と共に現れたのは先ほどの山賊の頭とその取り巻きの図体のでかい男が三人。どれも口の端に賤しげな笑いを浮かべ、大股にゼルダに近づいてくる。ゼルダは何とか立ち上がって逃げようともがいたが、両手両足をきつく麻縄で縛られていたので芋虫のようにその場で僅かに身じろぎ出来たに過ぎない。

「アンタのところの騎士もそこそこやるなぁ。あの鬼神みたいな男は誰だ?あの男一人に30人は殺られたぜ」

恐怖に慄くゼルダをよそに、山賊の頭は酔っているのか陽気にそう言った。おそらくはリンクのことを言っているのだろうと予想はついたし、確かにリンクはハイラルの騎士団の中でも鬼神の異名をとるが、ゼルダはこんな男に彼のことを話す気になれなかった。
しかしゼルダがだんまりを決め込むと、山賊の頭はおもむろに立ち上がって彼女の美しく整えられた金髪を乱暴に鷲掴みにした。思わず悲鳴を上げるゼルダに酒臭い息を吹きかけ、にやりと男は笑う。囚われの姫は瞳に涙を溜めつつ、それを零さまいと必死に男を睨みつけた。

「お姫サマは状況が分かってねぇみたいだな。アンタは今山賊の手の中にいるんだ。あんまり調子乗ってると犯すぞコラ」

しかしゼルダの視線などものともしない山賊の頭は、がっはっはと豪快に笑った。ついに我慢しきれずにゼルダの瞳から大量の涙が零れ落ちる。それに合わせて取り巻きの男たちも下品な笑い声を漏らす。そのうちのひとりが笑いながら言った。

「これがあの“ハイラルの光”とまで言われたゼルダ姫か!笑わせるぜ…周りに護衛がいなきゃ怖くてお話も出来ませんか!?」

「ぎゃはは、違いねぇ。さしずめ今の姫さんは“孤独の牢の囚われ姫”ってとこか!」

さらにもう一人が言うと、再び耳障りな嗤笑が響く。ゼルダはただただ、真白になりかける頭に浮かぶ名を叫ぶことしか出来なかった。

「…っリンク…――リンクーッ!!」

「…嗚呼、ここにいましたか」

その叫び声に呼応して、この場の誰のものでもない声がする。山賊たちがばっと入口を振り向くと、扉にもたれてこちらを見やる金髪の青年が一人、穏やかな微笑を湛えて佇んでいた。

「て…てめぇ何者だ!何処から入った!?」

取り巻きの一人が腰に差した刀を抜きながら叫ぶ。青年は手に提げた剣と盾を構えて臨戦態勢に入ってから、微笑を湛えたまま答えた。

「申し遅れました。私はハイラル王家騎士団王女護衛部隊1番隊隊長リンク…“鬼神”の名で皆様には記憶して頂いております」

「な…!!」

自己紹介の間にリンクは取り巻きの男の一人を袈裟掛けに斬り倒した。さすが鬼神、容赦のよの字も見られない。

「先ほどの“何処から入ったか”という質問ですが」

涼しい顔で会話を続けるリンク。しかし微笑を浮かべるその表情の中、冷たすぎる瞳だけは笑っていない。

「正面から入らせて頂きました」

「何?!じゃあ他の奴らは騎士団に…」

山賊の頭は顔を真っ青にして叫んだ。ここはこの山賊の全てが集まる謂わば根城である。騎士団の実力を侮ったか、と男が思っているとリンクはそれを汲み取ったように「いいえ?」と首を傾げた。

「ご安心を。私がここにきたのは独断ですから、ここには私以外の騎士はいませんよ」

まだ騎士団が来ていると言われた方が驚きが少なかったに違いない。彼一人に何十人何百人といる山賊たちが壊滅状態に陥るとは。しかしそれがリンクの鬼神たる所以なのだ。
山賊の頭が呆然としている間に、リンクはまた一人取り巻きの男の肩を剣で貫きその顔面に強烈な蹴りを見舞った。長年リンクと一緒にいるゼルダは、彼が相当怒り心頭であることを知る。こういうときの彼は、無駄に笑顔で饒舌で、かつ攻撃に明確な悪意が見える。

「で、どなたです?」

にっこり笑って長剣を肩に担ぎ、最後に残った山賊の頭とその取り巻きの男一人とを見比べるリンク。一瞬リンクは真の笑顔をゼルダに向けて、それを今度は貼り付けたような笑みに変えて男たちを見据えた。

「私の姫君を泣かせたのは、どこの命知らずな野郎ですか?」

「ひ…ひぃ…ッ」



どかーん、ばきーんと、言葉では表現しがたいリンクの破壊活動の後、ゼルダはようやく山賊たちの戒めから解放された。
直前まで張り詰めていた何かが切れるように、ゼルダはリンクの胸に飛び込む。リンクは若干よろめきながらもその華奢な体を受け止めた。

「…声を上げて下さいとあれほど言ったでしょう」

「ごめんなさい」

「心配したんですからね」

「…本当に反省してるわ」

おどけたリンクとは対照的に、心底落ち込んだ様子のゼルダ。リンクは瞳を細めてそんな彼女の頭に手を乗せた。

「まぁ…正直ゼルダが一人で捕まってくれると嬉しいこともありますけど」

「…?」

へらりと笑うリンクの無邪気そうな顔は、先程までの鬼神のような面影は一切ない。

「だって助けた後に、二人っきりになれるじゃないですか」

「まぁ…」

思わずゼルダは顔を赤らめて俯いた。しかしもう一度遠慮がちにリンクを見上げると、小さく微笑んで彼の背に腕を回す。

「困った人ね」

「お互い様でしょう」

暗い。
湿った空気が体にまとわりつく。体は動かない。しかし不思議と心地良かった。

だって、そう。

孤独の牢に囚われた私を助けに来てくれるのは、



いつだって貴方なんだから。


***

色々とすいませんでしたorz

ここまでの御拝読ありがとうございます。





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