皆のためにを吐く
(スザルル)


「ルルーシュ…本気?」
「…あぁ……もう決めたんだ…」

ルルーシュは自らが死ぬことで、悲しみを終わらせる事を決めた

「ねぇ…約束―――――。」

ルルーシュは薄く微笑む
つられてスザクもふっと…………泣きながら笑った

「…あぁ……約束だ―――――」



〈〈絶対に…二人で幸せになろう……〉〉





冷たい躯に温かい涙が降り注ぐ

優しい彼は死んだ―――

「っ、…っ約束だから……ね…」


優しい嘘
全ての為に事故犠牲を行った優しい王





暗くて寒い
周りを飛ぶ小さな光だけが仄かに暖かい

「……皆、迎えに来てくれたのか?」
『……っ兄…さ…』

すすり泣く音がする
その光――ロロが泣いているのが分かった
ルルーシュはその光を抱きしめようとした

だが不可能だった
その光がルルーシュの腕から離れていく
周りの闇がやけに暗く感じた
もう光が見えない

「また独り…か?」
〈なぁルルーシュ、お前は今、寂しくて痛いだろう?〉
「――――C.C.」

寂しくなど無いと…、俺は優しい世界を創り上げたと…ルルーシュは言いたかった
だが、口から出たのは「約束を破ってしまった…」という公悔の言葉

ルルーシュは悲しい約束だと呟いて自らの胸を見た
其処はスザクに愛された証が在った筈だった場所

〈枢木スザクとの約束……か?………フ、……ルルーシュ…良いことを教えてやろうか?〉
「どうせ下らない事だろう?」

ルルーシュがC.C.に全てを諦めた様な笑みを返す
実際、今のルルーシュに希望はなかった
出来る事なら静かに自分を見つめる闇が、在りもしない来世に導いてくれるのならば…
不意に頭によぎった悲しそうな翡翠に気づかない振りをして…
只周りの闇に呑み込まれたい

〈彼奴…あれから泣いて無いぞ…〉
「…そうか…」

気付かせないで欲しい
ルルーシュが感じている何倍もの苦しみをスザクが背負っている事

心に空いたブラックホール

〈もう一つ…私は魔女だ。〉


その瞬間ルルーシュの視界がぐにゃりと歪んだ


…ただ悲しくて…哀しくて……会いたかった

〈お前へのバースデイプレゼントだ…〉

今度こそ視界が浸食され、ルルーシュは光に呑まれた






失うのは怖くない
もう一番大切なモノを失ったから

「…ルルーシュ……」

仮面を取る事は許されない
いや…俺が嫌なだけかもしれない
ゼロになる時が、一番君を近くに感じるから…

――――チッチッチッ…

あともう少し

彼の誕生日のお祝いの為に、ずっと前から用意していた指輪は渡せない

他の人達が彼に渡すつもりだったプレゼントは、かつての悪逆皇帝の部屋―――
今の俺の部屋に山積みになって俺を攻め続ける
ルルーシュがナナリーから貰う筈だった時計が、彼が居なくなってからの時を、鮮明に俺に伝える
それは、もう終わった事だ…諦めろと言っている様だった
何度も壊しかけた
だけど、それは誰かが彼の為を想って贈った時計
壊せる筈が無かった

「……こんな…っ…」

ドスッという音と同時に壁に思い切り拳を叩きつける
どれだけ殴っても、どれだけ時が経っても、スザクの心はどこか空虚だった






ルルーシュは走っていた

「あのっ……魔女めっ!!」

〈あぁ、枢木スザクにお前の誕生日が終わる12時までに会えたなら…〉

「っはぁっ…最高のプレゼントだっ!」

政庁の階段
スザクがどこに居るかなど分からなかった
誰かに見つかるかもしれない
だが階段を駆け上がる
ルルーシュの体力ではたかが知れている
それでも走った
時間は限られている
あと少ししか時間が…

――――バタンッ!!

先ず開けたのはかつてスザクが使っていた部屋だった
そこに人影はない
今では全く使用されていないらしく、生活感の欠片も無かった
ルルーシュは急いで別の部屋にかけだしていく

『俺の部屋かっ!?』

廊下が暗い
何度か毛の深い絨毯に足を取られそうになった
それでも走った
間に合わないっ!!!

――――バタンッ!!!!!

そこには月光に照らされた青年の逞しい背中が在った

――――ゴーンゴーンゴーンゴーン…

部屋の中だけに響く、あのプレゼントの時計が12回鐘を鳴らす
鳴り終わる頃にはスザクとルルーシュの唇は、お互いの唇に触れ合っていた
とびきり優しい口付けだった

「……ル…ル……シュ…」
「スザ………」

二人とも言葉が出て来なかった

だが…カウントは確かに二人が会う前なのだ
スザクは ルルーシュを認識していなかった

「スザク……ゴメン…」

疲労からくるものとは違う震えが全身を駆け巡る
その柔らかな髪の先が、僅かに砂に変わってきていた
砂になった部分はポロポロと崩れ始める
スザクはただ訳が分からずに呆然としている
白い肌にツゥッと雫が伝っていった

「スザク…」

その端正な顔を歪ませながら、それでもスザクの背中に回った手は離す気配は無い
ギュッと握った小さな拳
悲しみは止まらなかった

「……君は…ルルーシュだよね?
ううん…絶対にルルーシュだっ…!」
「スザ……俺は…」

ゆっくりスザクから離れていく
その指先は、やはりまだ震えていた
スザクは小さなその手を取って執務用の机の引き出しに入れておいた小さな箱を取り出す
もう幾度も体を重ね合わせた仲の二人だ
中に入っている物の検討位、容易につく

「…コレは僕の君への気持ちなんだ…受け取ってくれる?」

場の雰囲気とは裏腹に、スザクは早口でまくしたてる
ルルーシュが泣いている
ルルーシュは泣かせては駄目
ルルーシュを失いたくない
気持ちが例え細い糸だろうと、絆という形で残せるなら

「ルルーシュ…」

だがルルーシュは首を横に振った
二人の絆の否定…拒否の気持ちの顕れ
それはもしかしたら傷つくのが嫌だったからかもしれない
絆は……お互いを締め付ける鎖になるかもしれない
スザクの未来にある幸せを壊してしまうかもしれない

「駄目…だ……」

ルルーシュの真っ白な太ももに罅が入っていく

「スザク……愛してる…」

滅多に言わない言葉を今使う
痛みが増すのは分かっていたけれど、悲しそうな顔をさせたくは無かった

「ルルーシュ……なら何で?」

その手を取ってみると、指が崩れ落ちていった
もうルルーシュには指輪をいれるべき指が無い

「…すまない…」

涙を流す彼の姿は、もう既に胸から上の部分しか残っていなかった

「何で……」

悔しくて悔しくてルルーシュを抱き締めた
何時もなら痛いという言葉を言う筈の強さで抱きしめても、ルルーシュはスザクに身を任せていた

「ごめん…」

もう顔しか残ってない
あの細い体を抱きしめる事は出来ない
だから、最初とは違う深い深い口付けをした
指輪の様な形有るものとは違う不確かさ
それでも二人の唇に刻み込む様に口付けた

直後、ルルーシュは砂になって消えた




〈ルルーシュ……〉
「C.C.…」

どうせなら最後はスザクの声が聞きたかったと贅沢な事を考えながら、ルルーシュは魔女の言葉に耳を傾けた


カーテンがバサバサと音を立てて翻っている
闇夜に翻っているその様は、まるで100年の昔の漆黒の仮面の反逆者

それとは真逆の白い肌を持つ少年が月光を浴び、ベランダに佇んでいた

『なら…コレは褒美だと思えば良い。』

最後に聞こえた声は偽りでは無かった

「ルルーシュッ!!」
「…スザク…」

なぜなら…

「一人でベランダに出てたら風邪引くじゃないか!君は只でさえ痩せてるのに…」
「あぁ、少し懐かしくてな…」
「懐かしい?」

今では温もりがすぐ側にある
今までC.C.にも誕生日にも、あれほど感謝した事はなかった
今はあれから丁度100年

全てが変わった
スザクは、あの時の記憶は無かったけれど、今でも優しくしてくれる、愛してくれる

「ルルーシュ……その…あのさ………それで……えっと…」

いつものスザクには見られない歯切れの悪さ
ルルーシュはフッと笑って優しくその唇を重ねた

「……ルルーシュ…?」
「ありがとう…」

このありがとうは、ありのままの自分を大切にしてくれた全ての人達に

「ルルーシュ…誕生日おめでとう……で…コレ!!」

真っ赤になりながらルルーシュに差し出したのは、あの時とは違うも二人の左手の薬指に飾る確かな絆だった

「………」
「あのっ…僕が選んだのだから変かもしれないけど…でもっ……」
「スザク……愛してる…」


その時…世界にかけた全ての優しい嘘が、優しい本当に変わっていった





タイトルお題元:確かに恋だった



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