テーブルには主役が大好きな料理やワインが並べられ、そのテーブルの周りには主役の友達や家族主役の祝福のため席へと着き、特大のデコレーションケーキに火を灯す。
それを見た主役は喜びのあまり椅子の上で飛び跳ね少し母親から叱咤を受けるが、気にもせず、幸せそうにローソクの火を優しく吹き消した。
主役は友達や家族から一斉に祝福の言葉をかけられ、手には渡されたプレゼント。
満面の優しい笑みを浮かべる事でそれを返す主役。


コレはそれぞれ違いはあれど、一般家庭のごくありふれた誕生日の風景…。





君も今日迎える筈だった―。
こんな当たり前な誕生日を





あのゼロレクイエムさえ実行しなければ――


僕は今更の後悔を頭に巡らせながら、ポケットの中にある小さな包みを強く握り締めた。




あいたくてたまらない君へ
(スザルル)



ルルーシュ、今日12月5日は君が迎える筈だった19回目の誕生日。

しかし今の僕には、君を祝う事すら出来ない。
僕は君を殺した日からゼロになった。

ゼロが悪逆皇帝の誕生日を祝う行為は許される事ではない。
世間的にも。
そして何より僕自身が許せないでいる。




この日、僕は公務中突然ナナリーに呼び止められた。

「ゼロさん少し宜しいですか?」
「なんですか、ナナリー皇女殿下」
「あの、今日少しお時間を頂けないでしょうか?」
「時間ですか。別に構いませんが、何か問題でも」
「いえ!問題なんてありません。いつもゼロさんには助けて頂いているばかりで、本当にありがとうございます。それで、あの‥公務が終わってから私の部屋に来
てもらえますか?」
「ナナリー皇女殿下の部屋?それはなぜ」
「ワケは後程お話します。お願いです!必ず私の部屋に来て下さい!!」
「わ‥わかりました‥」

僕はナナリーに圧倒され押し負ける形で約束を取り付けさせられた。それにしても、ナナリーがあんな必死になってるの久々に見た気がする‥。




僕はゼロとしての公務が終わった後、躊躇しつつもナナリーが待っている部屋へ向かった。

「ナナリー皇女殿下、入ります」
「あっゼロさん!ようこそ来て下さいました。さあ、中へ入って下さい」
「…失礼します」

僕は部屋に入った途端部屋の状況に驚いた。
あちらこちらには装飾品が飾り付けられ、テーブルには美味しそうな料理が並べられていたから。


もしかしてナナリーは…


「ゼロさん。最後にケーキをテーブルの上に置いて頂けますか?」
「‥畏まりました」
「完成!ゼロさん手伝って頂いてありがとうございます」
「いえ、たいした事してません。ナナリー皇女殿下、もしかしてこの料理やケーキは‥」


「はい。ゼロさん…いえスザクさん。今日はお兄様が迎える筈だった19回目の誕生日。公の場でお祝いする事は出来ませんが、せめて私達だけでもお兄様の誕生
日をお祝いしたいと思い、今日スザクさんをお誘いした次第です」





僕がルルーシュの誕生日祝い‥






僕が‥祝‥い‥


そんなのっっ!!!



「出来る筈ない。第一、俺はゼロだ。スザクではない。ナナリー皇女殿下すみません、体調が悪いので失礼します」
「まっ待って下さい!
スザクさんなぜです。なぜお兄様の誕生日を祝ってくださらないのですか」




なぜ?そんなの簡単だ。
ナナリーの兄‥ルルーシュを殺したのは紛れもない僕だからだ。
そんな輩が祝いだなんて出来る筈無いじゃないか。




僕はナナリーが必死に説得している視線を背中で痛いぐらいに感じながら早歩きで扉に向かった。もう一刻もここにいたく無かったから。



「スザクさん!」
「俺はゼロです。話はそれだけですか?では、失礼します」

僕はドアノブに手を掛けた。

「では、せめてこれを‥!これを持っていって下さい」

ナナリーは僕を止めようと車椅子で急いだせいか、少し息を切らしていた。僕は其処までして何を渡したかったのだろうと、ナナリーの手の中にある物を見た。
それは、一本のローソクが立っている小さなケーキ。


「スザクさんお願いします。これだけはわかって下さい‥私はあなただからこそ、お兄様の誕生日を祝って欲しいと思っています。あなた意外にお兄様を喜ばせ
るお人はいないんです」


ナナリーは、仮面で隠れている僕の目の位置をみて、意志の強い言葉で僕に話した。そして言い終わると小さなケーキを自分の手から僕に手渡した。
ポケットに入っている包みに僕は無意識に手をやり、強く握り締めた。

「わかりました。これは受け取ります。では失礼します」

僕はケーキを受け取り、今度はナナリーの制止もなく僕はドアを開け外へ出て行った。





―――――――――――





僕はそのまま家に帰る事にした。
もう今の自分には平然でいられる余裕が全然無かったから。

山の奥の奥にある自分の家に帰ると、ナナリーから受け取ったケーキを机に置き、仮面とマントを棚にかけすぐさまベットに横たわった。

「月‥か‥」

横向きのまま何の気なしに窓を見ると、ソコには綺麗な月が見えていた。
実際は窓防犯が仕掛けられているので正確な色ではないのに、今日に限って僕はとても綺麗に思えて仕方がなかった。
本当に綺麗で‥まるであの時のルルーシュみたいに見えた。

僕はポケットから包みを取り出し、中から小さな指輪を出した。ルルーシュに挙げる筈だったお揃いのシルバーリング。


『ルルーシュ』
『なんだ、スザク』
『ちょっと渡したい物があるんだ』
『渡したい物?』
『うん。あっでも、いつかだから!』
『いつか‥って。今じゃダメなのか?』
『ダメ!ぜ〜ったいダメ!だからソレまで待ってて』
『フッ可笑しな奴だな。わかったよ。じゃその《いつか》とやらになったら渡してくれ』
『うん。待っててよルルーシュ』
『ああ。約束だ』


あの時まだ時期じゃないと思って、ルルーシュに指輪を渡さなかった。けど、今更ながらあの時何故渡さなかったのかと後悔する。あの時あの瞬間に渡していな
ければ、この指輪は何の意味もなさないのに。


「ルルーシュ‥」


君の名前を呼んでも虚しい声が部屋中に広がるばかりで、僕はまた自己嫌悪に陥る。

「あっそうだ、ケーキ」

僕はナナリーから貰ったケーキの事を思い出し、ケーキの前に腰を下ろし、折角だからとローソクに火を点けた。


『お兄様を喜ばせるお人はスザクさんしかいないんです』


ナナリーはああ言ってた。
けど‥僕には‥


『スザク‥』


ルルーシュ‥少しだけなら、今だけなら‥君を祝っていいかな‥。
僕は思い切って誕生日の歌を歌い始めた。



「は‥ハッピーバースディトゥユー‥ハッピーバースディトゥユー‥ハッピーバース‥ディ‥でぃあ‥る‥る‥しゅ‥‥あっ‥くっ‥‥っ」




やっぱり無理だ。
僕に君を祝う資格なんてない。現に涙がこぼれ落ちて最後まで歌えてないじゃないか。

ルルーシュ‥
僕は君に二度と会えないのに、君だと感じるものは小さいことから大きな事まで周りにはいっぱい存在し、僕はそのたび胸が張り裂けそうになる。

今だってケーキ一個と指輪だけで、いや、ふとした瞬間だけでも、君がいた残像が目に焼き付いていて気が狂いそうになる自分がいる。



ルルーシュ‥僕はいつまでこの孤独感を味わえばいいんだろう。



僕は椅子にもたれ掛かり、声を押し殺すように泣いた。




『スザクなんだ』
『ん?なにが』
『だから包みの中身はなんだと聞いてるんだ』
『だめだよ。中身も教えな〜い』
『なんだよそれ。じゃ俺は中身も分からず、いつ渡されるかも分からず、ずっと渡されるまで待たされるわけなのか?』
『うん。そ!』
『全く‥お前という奴は。まあいいさ、これも一興だ』
『酷いよ、ルルーシュ。一興ってまるで僕が馬鹿みたいじゃないか』
『馬鹿にしてないさ、ただ体力馬鹿だとは思ってるけどな』
『ルルーシュ!!』




『は‥ははは‥けどな、スザク』
『なに、ルルーシュ?』





『例え中身がなんだろと、




俺にとってお前は





一番楽しませてくれる存在だよ』







そうだった、


思い出した。
僕はルルーシュにとって一番の楽しませる存在。
君が楽しんでくれるなら、僕はどんな時にでも実行にうつしてきた。




君に笑って欲しくて‥。




笑顔が見たくて、




僕に笑顔を向けて欲しくて。




本当に只それだけで良かったことを。







僕は伏せていた顔を上げ涙を拭いた。

何を僕は泣いていたんだ。
当たり前じゃないか、この孤独感は君が自分の中で大きかった事の証。
君がいたから感じられるかけがえのない感情。



だから僕は、君が望んだ世界を…優しい世界を見守るためにゼロになったんだ。





君がいつまでも笑顔を絶やさないように‥。






机の上では今にも折れそうなローソクが、力なくても必死に火を灯そうと燃えていた。
まるで、今の自分を見てるみたいで笑えてきた。
僕はケーキ皿の底を支え、目の前へと持ってくる。





「ルルーシュ…誕生日おめでとう…、そして‥ありがとう」





まだ涙目になりつつも、僕は優しくローソクの火を吹き消した。

まるで君に触れるように優しく、そして愛情をこめて―――





僕はケーキを机の上に戻すと、再び仮面を被り自室を後にした。




もう迷わない。
君の笑顔が消えないように
僕はコレからもゼロとして生きていく。

それが今の僕に出来る君への誕生日プレゼントだ。







月灯りが更に差し込み部屋を一層明るくする。

そして残された部屋には
ケーキと一緒に指輪が寄り添うようにそっと置かれていた。



それは紛れもない
あいたくてたまらない君への




愛の証。








*TOOBOE-トオボエ-*/柑月京様
お題元:確かに恋だった



あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[管理]

無料HPエムペ!