泣くのは明日にしよう 4 4.Another World 「見て、ルルーシュ!」 ずっと変わることのない穏やかな春の野。 青々しく柔らかな草を褥(しとね)にして惰眠を貪っていたルルーシュは、肩を揺すぶられて目を覚ます。 目覚めたばかりでぼやけた視界に映るのは、自分を覗き込む4人の人影。 「ルルってば、こっちに来てから寝てばっかりなんだから!」 「仕方ないですよシャーリーさん。兄さんはずっと頑張ってきたから、疲れているんです」 「寝ているルルーシュも美しいから、描きがいはあるけどね!」 きゃいきゃいと楽しげに騒ぐ、自分によって短い生涯を終えてしまった彼らの姿に、ルルーシュは顔を綻ばせて微笑んだ。 「ルルーシュ!早くこっちに来て!」 言うなり横になっているルルーシュの腕をぐいぐいと引っ張り、ユフィは湖面を指差す。 「見て!」 「痛いだろ、ユフィ…これは?」 淵に座り、湖面を見るとそこには、きらきらと無数の光が瞬いていた。 「きれいでしょう?」 ルルーシュは目を見張って湖面に見入る。 「ナナリーとスザクがね、人を集めたのよ」 あちらでは、今日がルルーシュの誕生日なんですって。 「ここは時間という概念がないから、わからないけどね」 弾んだ声音のクロヴィスが、真っ白なカンバスに色をのせていく。 「ナナリーと、スザク、が」 「あ、ほら!あそこに2人がいるわ、ルル!」 シャーリーが指差す先に、片手を繋いで笑う2人がいた。 ルルーシュは湖に落ちそうな程、身を乗り出して食い入るように2人を見つめる。ロロが、運動神経の鈍い兄を心配して、落ちないように体を支えた。 「ここにいる人たちは、今日が俺の誕生日だと、知っているのか…?」 「声が聞こえないからわからないけど、ナナリーが皆に話しているときの口を読んだら、兄さんのことを言っているようだったよ」 「…みんなは、俺が憎いはずだろうに」 闇のなかできらきらと輝くのは、暖かそうに揺らめく炎のともしび。 それを見つめ、穏やかに微笑んでいる、人々。 ルルーシュには、湖面の光景が、信じられない。 亡骸だって、八つ裂きにされてもおかしくはなかったのに、何も失う事無く、果てたその時のまま埋葬された。埋葬だって、許されないと思っていたのに、ス ザクの隣に墓石を置かれた。 考えていたことと、違う未来ばかりが起きている。 たくさんのイレギュラーに、ルルーシュは戸惑う。 「全部がルルの思うとおりにいくはずないでしょー?」 「そもそも、兄さんの策、ばれちゃったみたいだしね」 くすくすと笑みをこぼすロロたちに、苦笑で返して、ルルーシュは湖面に映る人々を見つめ続けた。 よく見れば、皆が皆、穏やかに微笑んでいるわけではなく、切ない笑みを口元に浮かべてキャンドルを見つめる人も、少なくない。 「…今日が、俺の誕生日だというのなら、祈っても、構わないかな」 たくさんの命を奪い、死を選んだ己に、祈る権利はないとわかっていても、思わずにはいられない。 祈りなんて意味がないと、何年も前に絶望したはずなのに、自らの口から祈りたいという言葉がこぼれたことに、ルルーシュは驚き、不変の常春で寝てばかり いたから頭が沸いてしまったにちがいないと、困ったように笑った。 「ルルーシュの誕生日なんだから、いいにきまっているじゃない」 「誕生日は我儘を言ってもいい日なんだよ。ルルーシュみたいな子は、特にね」 義妹と義兄に優しい笑みを向けられ、面映ゆい気持ちになったルルーシュは、瞳を閉じる。 「…スザクとナナリーが泣くことのない明日が訪れますように」 「泣くことのない、明日?」 首を傾げるロロに、瞳をあけたルルーシュは微笑んだ。 「皆が平和に過ごせる明日を望むのは、無理だから。とりあえず、一番大切な2人が、明日を笑って過ごせるようにと思って」 「ルルの願い、きっと叶うよ」 常春に注がれる太陽のようなシャーリーの明るい笑顔に、ルルーシュは目を細めた。 いつも笑っていてとは言わないから、 俺の大切な人が、 明日だけでも心穏やかに過ごせますように。 祝ってくれて、有難う。 Camellia/灰様 お題元:確かに恋だった ← |