『鬼畜王子』
バレンタイン小説です!
「またなー」
学校の帰り道、柚月と別れると俺は一目散にデパートに向かった。
何故かって?
そ、そりゃあ、アレだよ!
明日はバレンタインだろ?
柚月にやろうと思ってチョコを買いに行こうと…。
こんな事するのって、俺の柄じゃねーし、そもそも女があげるイベントだしな。
ただ、せっかくのバレンタインくらい静かに過ごすのも何だし、白蘭まで来てチョコを渡しに来る女子なんていないから。
一番の不良高校なんかに女子なんて足も向けてくれない。
でも、女子なんていい。
今は柚月がいるから―…。
…なんて、恥ずかしい台詞だな俺。
だけど、柚月と出会って初めてのイベント。
チョコぐらい渡したってバチは当たらないだろう。
それに、転校せずにここを選んでくれたお礼も含めて。
だって、あの時のお礼が俺の身体ってどうよ?
柚月がここにいてくれる事に凄く感謝してるんだ。
自分ばかりが好き過ぎて悩んでたけど、柚月の気持ちが分かって嬉しい。
だから、女々しい事は承知でチョコを送ろうと思う。
でもアイツ、甘いのとか嫌いそうだよな…。
渡した瞬間、『下らん』 『いらない』とか素でいいそうだし。
ま、いいさ。
俺の自己満足なんだから!
―バレンタイン当日―
「…めっちゃドキドキして来た」
女子が男子にチョコを渡す気持ちって、こんなにも緊張するもんなんだな。
俺、女じゃねーけど気持ち分かるかも。
昨日デパートで買った、少し高めのトリュフ。
ビターだから甘くないし大丈夫だと思い購入した。
しかし、渡すタイミングに悩む。
女子のイベントを俺がしてるのもどうかと思うが、ここは勇気を振り絞って渡そう!
緊張した面持ちで教室に入る。
柚月の席を見ると、既に来て読書をしていた。
「…お、おぅ」
普段と変わらない朝の挨拶でさえも緊張してしまう。
「あぁ」
短く返されると俺は席に着いた。
柚月は俺の後ろの席だから背中で空気を感じる。
でも、後ろで良かった。
前だったら振り向かれた時、対処に困るもんなぁ…。
「あ、慶太!」
声をする方に目をやると藤谷が俺を呼んでいた。
「何?」
「慶太が読みたがってた本持って来たぜ!」
「うそっ!マジ?」
俺が読みたかった漫画本を出され借りに行こうと席を立った。
ポトッ――
「慶太何か落ちたぞ」
柚月に言われ床を見てみると、ポケットに隠していたチョコが落ちていた。
やっ、やばっ!!
さすがに、ここじゃまずいだろ!?
「…誰かに貰ったのか?」
柚月の喋る声のトーンが低い。
間違い無く誤解されている。
「ち、違うんだっ」
これは柚月に。って言いたいけど、藤谷がこっちに来たので口を閉じてしまった。
「チョコじゃん!慶太モテる〜」
チョコに気付いた藤谷はヒューヒューと、死語を吐きながらちゃかして来た。
「だから違うって言ってんだろっ!!」
これ以上、柚月に誤解されたくない俺は声を上げて怒鳴る。
「良かったね、慶太君?」
柚月まで皮肉に笑いながら俺をからかう。
人の気も知らないでっ!!
俺は怒ったまま教室から飛び出して行った。
あそこにいるのが居たたまれなくて逃げ出した。
「何が、良かったね。だよっ!!お前に持って来たチョコだっつーの!」
苛々が止まらず近くの壁を蹴った。
はぁ〜…、どうしたもんか。
女子に貰ったって勘違いされてるし。
普通に渡して、感謝のお礼でも言おうと考えていたのに、気まず過ぎて渡すことなんて出来やしない。
マジ最悪。
そんなこんなんで、気付けば皆が帰る時間になっていた。
あの後、仕方なく教室に戻ったが柚月とは一言も喋っていない。
こんなはずじゃ無かったのに…。
柚月は俺に声もかけてくれず一人で帰ろうと教室を出て行った。
いつもなら一緒に帰ってるのに。
俺ってドジすぎ。
チョコを落としたせいでギクシャクになってさ。
…―けど、せっかく柚月に買ったチョコだ!
誤解されたままなんて嫌だし、ちゃんと渡したい!!
決意した俺は柚月を追っかける為に走りだした。
「柚月っ!!」
懸命に走り見つけると、声を上げて名前を呼んだ。
だけど柚月は振り向かずスタスタと歩いて行く。
完璧にキレてやがる。
それでも俺は追い続け、柚月の前で立ちふさがった。
「シカトすんなよっ!!」
「は?してないけど」
嘘つけ。聞こえてたクセに!
「だいたいなっ!あのチョコはゆ、…ゆっ、」
いざ言おうとしたら、恥ずかしくなり上手く言えない。
「ちゃんと喋れよ。用が無いなら帰るぞ」
「あっ!ちょっ!」
本当に帰ろうと足を進める柚月を必死に止める。
「だっ、だから!あのチョコはお前にやるために持って来たのっ!」
大声で叫んでしまった俺は、ハァハァと息を吐いた。
「幼稚な嘘を」
まだ信じない柚月は、はぁ〜と小さく溜息をついた。
「嘘じゃねーよっ!昨日買いに行ったんだよっ」
チョコを突き出すと柚月は細い目でそのチョコを見ている。
「お前が…白蘭に残ってくれて…本気で嬉しかったんだ。だから…ちゃんとしたお礼と気持ちを伝えたかったんだ…よ」
目を合わせるのは恥ずかしいから逸らして本当の気持ちを伝えた。
これで誤解だったって分かってくれただろうか?
「言い訳まで上手くなったもんだな」
「はぁ!?言い訳だと!」
素直に気持ちを言ったのに、まだ信じられない様子の柚月は冷たい言葉を吐いた。
「ざけんなよっ!!これのどこが言い訳なんだよっ!!柚月の為に買って―…」
気持ちが高ぶって感情がコントロール出来ない。
言っているこっちが苦しくて切なくて、俺は最後まで喋れず途中で言葉を止めてしまった。
どうして信じねーの?
柚月が一番好きだって知ってるクセに!
柚月なんか、もうキラ―…
「泣きそうな顔すんなよ。」
「…してない」
柚月が優しく頭を擦る。
「最初から分かってたよ」
「…え?」
「貰った物じゃないって事ぐらい」
「じゃあっ何で!!」
あんな意地悪ばっかみたいなこと言うんだよっ!!
「俺が好きなクセに女から貰うわけ無いだろ?そもそも慶太が女に貰う事なんて無いんだし」
…―サラッとムカつく事を言われた様な気がするんだが?
モテないといいたいのか?
それとも男子校だからと言いたいのか?
どっちにしてもムカつくんですけど!
それに、俺は顔は悪くないぞ!
「これ、俺に渡すために持って来たんだろ?」
柚月はチョコを受け取ると口端を上げて笑いやがった。
分かってるクセに言うなって感じっ!
「…そうだよっ!悪いかよ!」
ヤケクソになった俺は強い口調で言い返した。
「フッ。可愛いな」
か、可愛い…っ!!
俺の顔は見る見る真っ赤に染まってゆく。
「有り難く貰っといてやるよ」
何様だよ…。いや、柚月は元からこんな奴だったんだ。
今更苛ついても仕方がない。
「ちゃんと食べろよ?甘くないやつにしたんだから」
「そうだな。食べてやるか、お前と一緒に」
「…へっ?」
気付いた時には既に遅し。
柚月の手は俺の尻を撫でていた。
「…ばっ、バカ!」
「お前の身体と一緒に味わってやるって言ってんだよ」
「いっ、いいし!チョコだけ食えよっ」
「却下」
うっ、嘘だろー!!
無理矢理引っ張られ柚月の家の方角へと連れて行かれる。
でも、誤解も解けたし何だかんだ言ってもチョコを貰った時の柚月の顔が嬉しそうだった。
周りから見たら無表情にしか見えないけど、俺には分かるんだ。
柚月が好きだから―――。
END
―後書き―
続きが無くてすみません。
この後は、皆様のご想像にお任せ致します(^^
ちなみに、柚月が言った
『お前の身体と一緒に味わってやる』
は、チョコプレイの事ですね(苦笑)
鬼畜な柚月の事なので、普通のチョコプレイでは無いと思っております(^o^;
次の日、慶太君は起き上がれないと思います!
ここまで読んで頂いてありがとうございました!!
2012 2.12
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