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part of world




そしてまた、風がゆく。
抗議の声はいとも簡単にさらわれた。

外の空気が吸いたいと、それはつまり、お前もつきあえと言外の圧力。
うまく断る手は、今のところ一パターンも思い浮かばなかった。
重要だったはずの話し合いはどこへ、気がつけば馬を駆っていたのだ。
おそらくこの先も、こいつに逆らえる日はないだろう。
自分には案外、女性に弱い一面があるようだ。
ルルーシュはそう小さくつぶやくと、草原を抜ける風に髪を預けた。

「案外でもないよ、君は学校ではプレイボーイだったじゃないか」
「おいおい、随分な言い様だな」

後ろからかけられた言葉に眉をよせる。
あれは咲世子が…と言いかけて、やはりやめた。過去のことだ。
溜め息をおとすと、膝の上の魔女がみじろぐ。
作り物のような黄緑色がさらりと流れた。
息をつめて数秒。
ふたり顔を見合わせた。
魔女は無理やり起こされるのを嫌うのだ。
幸いなことに、青空の下、気持ち良さそうに閉じられた瞳は、こちらをにらみ付けることはなかった。

「まったく、どうしてオレまで付き合わなくちゃならないんだい」

やることが沢山あるっていうのに、と不満をもらす割に、口調は存外に明るかった。

「皇帝たるもの、護身用に武器くらい持たなくては」

なにしろオレは生粋の頭脳派なんだ。
視線をやらずに答えれば、背後で微笑んだようだった。
俯いた自身の口許も、知らずうちにゆるんでいて。

「そうだな、君は昔っから鈍かった」
「お前みたいに脳みそまで筋肉よりはマシだ」

いつかのような軽口に、思わず笑みを深めた。
彼もそうなのだろう、聞こえた溜め息は柔らかい。
それは澄んだ空気に溶けて、風を産む。
マントが舞う大袈裟な音がやんで、ふたりは沈黙した。
雲が長くのびる。山のいただきへと。
草原には草が揺れ、陽射しの中を鳥が飛ぶ。
見上げた空に目を閉じた。
人の住む街へと続く、眩しい青。
無意識のうちに引き結んだ唇が、もう、何かを紡ぐことはなかった。

そしてまた、風がゆく。







081211 さくら
R2の0.S.T.2のジャケット妄想。


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