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猫と英雄

ある日突然姿が見えなくなった。

まあ猫というのはそういうものだ、と思っていたので大して気にもしていなかった(そもそも自分が純然たる飼い主かと言えば、それもまた疑問が残る)。
またその内、ふらりとやってくるだろうと頭の片隅に留める程度で。

定位置に備えられた水と餌は、今日も減った様子が無い。
一週間ばかり見かけなくなったところで、流石に、どこに行ったんだろうなぁ、と今更のようにぼんやり思っていた。

その内にそれが一ヶ月になり、一つの季節を越える頃になると、ああもう帰ってこないのだ、と悟った。

猫は自分の行き着く場所を知っているという。
その時期になると、ひっそりと姿を消すのだと。

「アーサーも水臭いなぁ」

最期くらいここにいろよ、と独りごちる。
猫の寿命が人間のそれ程長くは無いのだと理解はしていたけれど。

自分の本当の名前を知っている存在が、いなくなった、ということを知った。
そしていつか誰もかもいなくなるのだろうか。
そう思いついたところで、俺はそんなに長く生きるつもりなのか、と自分を嘲った。
そんなことゆるされるのか。
いいや、そうでなければならないのだろう。
この身は、そうでなければならないのだ。
生き続けることが、『彼』の『願い』なのだから。
鎖であり、祝福。

「せいぜい生き抜いてみせるよ」
 
なあルルーシュ、とその名を呼ぶ。

今はもう応えるものもない、世界に捧げられた王の名前。


081121 陸
最初の別れ。1209一部改訂




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