使用人日誌
「みんな笑ってた」
落とされた声は、それはそれは小さなものであった。
体躯に似合わぬそれに、ふとあたりを見回すが、わたしと彼以外この図書室には誰もいない。
こう見えて貴族出身で勉強熱心である彼が、本を読みふけっている間に、みなさん生徒会室へと移動されてしまったのだ。
「そうですね、楽しそうにされていました」
わたしは答える。
パタンと本を閉じる音。
彼は顔を上げた。
「こんなにあっさりとしてていいんだろうか、とわたしは時々思う」
何が、とは言わなかった。それを指す言葉は一つしかない。
しかし、それに対する答えは無限にあるだろうし、全くないともいえる。
難しい話です、とわたしは瞳を見つめ返した。
「ただ、」
「ただ?」
「あっさりはしていないんじゃないでしょうか」
みなさんも、あなたも。
たくさんのものを失った。
たったひとつを。無数の可能性という、たったひとつを得るために。
そのためには当然の痛みで。
最高の演出で、最低の決断だった。
あの日の慟哭は、今も脳裏に焼き付いて離れない。
「それでも」
みなさん、と続く言葉は爆音にかき消された。
驚いて振り返れば、窓からのぞく青空には、大輪の花。
ああ確か生徒会室には行事用の荷物が置いたままになっていた。
連続して咲く低い音が、足元から響く。
思わず顔を見合わせて溜め息を落とした。
「みなさん、笑っていますね」
また一つ花が咲く。
「ああ」
色とりどりの光を受けた彼の瞳もまた、楽しそうに細められた。
「みんな、笑ってるよ」
きっと、遠い空のむこうでも。
9巻のピクドラから妄想。く、くさい…くさすぎる。 090524
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