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30 minutes night flight
三十分捻り出した、ちょっと付き合え、と言われたら、騎士たる自分は、イエス・ユアマジェスティと応じるしかない。


「しかし、君ってやつはその捻出した貴重な時間をこういうことに使うのかい?」
「黙ってろ」

皇帝の権威とか、騎士の礼節とか、そういうものは衣装ごと置いてきた。
元々そんなものは彼らにとって、その関係において、さして重要なものではなかった。
だから、ここに立っているのは、ただの二人の少年でしかない。
ともすれば、超大国の頂点に君臨するには、脆く儚く映るような。
彼らは、何をするでもなくただ空を見上げていた。
それは真昼の蒼から、小さな瞬きを落とす宵闇へと変わっていた。

「天体観測と洒落込んだわけか」

意外にロマンチストだな、と魔女は長い髪を翻す。
彼女だけはいつもの拘束衣のまま変わらない。
当然のようにルルーシュとスザクの後ろに控えていて、二人もそれを当然のこととして受け止めていた。

「気分転換さ。たまには夜の散歩も悪くないだろう?」
「まあな」

流石に夜道を馬で駆けるわけにはいかなかったが、普段歩き慣れた道でも、夜はまた違う表情を見せる。
空の上ならなおのこと。
広大なペンドラゴン宮の奥では市街地の灯りもあまり届かず、頭上では降るような星が瞬いている。

「……『朱雀』は、伝説上の鳥の名前だったな」
「急に何だい?」
「いや、昔そんな話をしたなと思って」

父の『ゲンブ』は黒い蛇と亀で、スザクは赤い鳥だという。
元は中華連邦の方の神獣なのだと、幼かったスザクは言っていた。

「古代、彼の国は星にも朱雀を見出したという」
「四神と二十八宿のことか」

C.C.がそう続けたので、ルルーシュは、ほう、とわずかに驚いた素振りを見せる。

「よく知っていたな」
「魔女を甘く見るなよ。……まあ、あそこには結構長い間居たことがあるしな」

そうだった、とルルーシュは思い出す。
C.C.の以前の契約者。
彼は中華連邦の出身だった。

「で、それが何だって?」

当のスザクは、彼らほどの無駄知識を持っていなかったので聞き役に徹していたが、自分の名前のことだ、気にはなる。

「空の……星座にも、朱雀と言われるものがあるんだ。……ああ、厳密に説明するとややこしいから省くが、あれもその星だ」

そう言ってルルーシュが一つの星を指し示す。
やや赤く――橙だろうか――際立って明るくもないが、その星の周りには他に目立つ星も無く、すぐに見つけられた。

「あの、オレンジ色の?」
「そうだ。ブリタニアではうみへび座の『アルファルド』と言われているが……」

ルルーシュはこの手の薀蓄(うんちく)はよく知っているよなぁ、と思いながら、スザクはその星を眺める。

「海蛇の心臓に当たる星だ。『孤独なもの』という意味らしい」
「……孤独ね」

スザクは息を一つ吐く。
いずれ自分に課せられる運命の皮肉のようだ。

「周囲に他に明るい星が見当たらないから『孤独なもの』だそうだ。……随分独り善がりな名前だと思わないか」

ルルーシュが小馬鹿にしたように笑う。

「見えないだけで、決して孤独なわけではないのに」

スザクがその言葉に振り向くと、また違う笑いでルルーシュは腕を組んでいた。
その眼が、そうだろう? と告げていたので、スザクは、同意するようにやはり笑ってみせた。

「星に罪はないがな。……そんなものは他人が決めることじゃないさ」

C.C.も目を空に向ける。
三人が思い思いに眺めても、ただ天は動き、星はそれぞれ違う光を放つだけだ。
アルファルドは頭上でぽつりと瞬いていた。
こうして目に映る星々は、実は遠く離れて存在しているけれど、確かにすべての星は同じ空間に繋がっている。
そして、この場所に彼方の光は届くのだ。
光を集めた天球を見上げながら、スザクは一つ呼吸する。
それは夜の匂いがした。

「――きっと、そういうことなんだな」
「スザク?」
「孤独に見えても、ひとりじゃない、ってことだよ」

手に触れられぬ、けれど、確かに存在する光。
三人とも、しばらく言葉を発することも無く、それを眺めていた。
やがてルルーシュが時間を告げて、短い天体観測は幕を閉じた。

皇帝と騎士、そして彼らの共犯者である魔女が背を向けた空に、星が一つ流れたことは、誰も知らない。


090208 タイトルは坂本真綾さんの曲から。でもバンプの『天体観測』のイメージも入ってるかも。二次創作は音楽頼り。


あきゅろす。
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