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idle talk
あいつは意外というかやっぱりというか、随分フェミニストだな、と魔女が言うので、そうだね、と騎士も頷いた。

「ナナリーには昔から優しかった」
「ああそうだろうな。目に入れても痛くないというヤツだろう」

冗談でも比喩でもなく、彼は妹のためなら自らの命すら差し出すだろう。
けれど、女に甘いのはそれとも違うな、とC.C.はテーブルに敷かれた何枚かのカードの上に自分の手札を一枚置いた。

「あいつなりの処世術なんだろうな。『人当たりの良いルルーシュ・ランペルージ』ならば余計な敵を作らずに済む。女性に優しく、というのはその応用や側面に過ぎない」
「彼自身は一旦敵に回すと厄介だけどね」

スザクも山に一枚追加する。

「それにしても」

C.C.は言い置いて、吟味したカードをそれに重ねた。

「無意識だろうが、ガードが甘過ぎるな。状況も状況だったが、あいつはもう少し自分の唇に執着した方がいい」

ということは、奪ったことがあるのか、とスザクは口に出さず疑問を投げかける。返された意地の悪い微笑みの意味するところは、おそらく、是、だ。

「ルルーシュは、あれで無防備なところがあるよ」

苦笑いで、もう一枚。
C.C.はそのカードを見てわずかに唸り、「パス」と呟く。
それを聞くとスザクはカードの山を流し、次なる手札を新たな場に置く。

「だから、放っておけない」

その声と共にスザクが提示したのは四枚のクイーン。スペード、ダイヤ、クラブ、ハートと、すべてのスートを揃えていた。つまり――

「『革命』」

そこで彼はにやりと悪戯めいた笑みを浮かべる。勝利を確信したように。
そんなことはゲームの中だけでしかないということも、知っていたけれど。

「それでこそ『騎士』だな、枢木卿」

芝居がかった口調でC.C.はパスを宣言するでもなく、カードをさらに重ねた。

「騎士とは、主君の傍らに立ち、それを仇なすものから守るもののことだ。その最後まで、な」

ジャックのカードが三枚、そしてジョーカーを一枚加えた四枚がクイーンの上に重ねられている。

「『革命返し』だ」

うわあ、とスザクは思わす声を上げて、少々不満気ではあったが潔く「ないよ」と答えた。
それに満足したように、C.C.は八枚のカードを退場させる。
あっという間にそれは、流れたカードの一部と化してしまう。
そういえば、と彼女は手札を眺めながら切り出した。

「知っているか? クラブのジャックのモデルは『ランスロット』だそうだ」

その名はスザクの搭乗機であるナイトメアフレームであるが、この場合は最高の円卓の騎士と謳われながら、王の信頼に背いた『裏切りの騎士』のことだ。

「なら、さしずめ君はクイーンかい?」
「まさか」

私はこれさ、と流したばかりのカードの一枚を指し示す。
四枚目のジャックの代わりに出されたジョーカーだ。
厄介者、最強の手札、トリックスター。

「こっちの方が私らしいと思わないか」

その冗談めかした言葉への返答としては、スザクは苦笑するに留めた。
C.C.はそれを特に咎めるでもなく、ダイヤの5、6、7(この期に及んで階段だ)を場に出し、手札がないことを示すように両手を広げて見せた。

「というわけで私の勝ちだ。残念だったな」

涼やかに勝利を宣言され、「あーあ、また俺の負けか」とスザクは溜息を吐く。
それでも律儀にカードを集めて、手際よく切る。

「ルルーシュはたとえ手札が悪くても、えげつない出し方で結局勝つけど、君も大概容赦ないね」

「お褒めに預かり恐縮だ。――あいつは手札が配られた時点で、上がり方をきちんと計算するタイプだろう?」

「それも何パターンも用意しているね」

「私はそこまで頭脳プレイヤーじゃないさ。要はタイミングと流れさえ読み間違えなければ、少なくとも負けることは無い」

ルルーシュより幾分感覚に頼るタイプだろうか。
それでも、読みは大体当たるのだが、これは経験によるもの――日本で言う、『亀の甲より年の劫』といったところだろう。
もっとも、そんなことを口に出すほどスザクも怖いもの知らずではなかったが。

「で? もう一戦するかい?」

スザクがよく切ったカードの山を、テーブルの上に置いた。

「そうだな……」

C.C.の返事は二人の頭上から降ってきた声に遮られた。

「……お前ら、二人で大貧民とか楽しいか?」

それは、ご就寝遊ばしていたはずの、我らが皇帝陛下のものだった。

「おや、ルルーシュ起きたのか」
「おはよう、ルルーシュ」

魔女と騎士は意に介さず、寝起きだと言うのにどこかげんなりした皇帝を置いてきぼりにして、第二戦に突入だ。
二人の視線はすでに配り始められたカードに注がれていたが、それでも一応、労いの言葉らしきものを、当の本人を見ずにかける。

「まだ起床時間ではないはずだが?」
「もっと寝てればいいのに」

人の部屋でゲームをしておきながらそれを言うのか、とルルーシュは眉を寄せる。

「どの口が寝ていろと言うんだ」

今更寝室に戻って、二度寝などできない。
そもそもこの部屋の人の気配が、続き部屋である寝室にまで伝わってきたから、わざわざ起き出すハメになったのだ。

「大体、トランプならもっと建設的なゲームがあるだろ……」

二人大貧民なんて不毛過ぎる。
革命、階段、何でもありだ。

「やるならスピードとか二人用にしておけ」
「私がスザクの動体視力に付いていけると思っているのか?」

明らかに不利だろう? とC.C.はルルーシュを睨みつける。

「あれは体力勝負だ。要求されるのは判断力、反射神経の鋭さ、素早い手の動き……どう考えてもスザクが有利だろう?」

それは、ある種ナイトメアパイロットにも通ずる条件かもしれない。
そりゃそうだ、とスザクも肯定する。

「というわけだ。わかったらルルーシュ、大人しくそこで見ているんだな」
「こういうゲームは君の独壇場だからね」

大貧民第二戦は、勝者と敗者の間で札の交換が行われるところから始まる。
やれやれと、ルルーシュは向かい合う二人の横で、腰を落ち着けることにする。
まだ着替えも済ませていなかった、と気付いたが、この際どうでもいい。

「ま、せいぜい高みの見物といかせてもらおうじゃないか」

そう呟いた彼の目の前で、またカードが踊った。


090105 陸
タイトルは「他愛無い話、くだらない話」という英語から。
文字通り、どうでもいい会話を繰り広げる人たち。
ところで大貧民はローカルルールが多すぎだと思います。


あきゅろす。
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