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変わってしまった君の何かに


シャルルは最近変わった。
変わってしまった。

僕が時の流れに取り残されてしまうことは、仕方の無いことだと思っていた。
それはこの強大な力を得た代償だ。――いや、罰だろうか。
でも孤独だとは思わなかった。
シャルルが、血を分けたたった一人のきょうだいがいたから、途方も無い夢も信じることができた。
互いを理解できるのは互いだけだと、疑いもしなかった。

ああ、でもそれなのに。
それなのに。


黄昏の庭園を歩く。
並んだ影は大小一つずつ。
もちろん僕が小さい方。

「ああ、兄さん見てください。素晴らしい夕陽ですね」

きっと明日はいい天気になりますよ、とシャルルは他愛も無いことを言いながら湖のほとりを歩く。

「そうだね」

でも僕には明日の天気なんてどうでもいい。
行き先不透明の未来は好きじゃない。

僕とシャルルが並んで歩くと、シャルルが歩幅を小さくしているのがよくわかる。
子供のまま時を止めた僕のそれに合わせているからだ。
もうすっかり大人になってしまったシャルルは体格も良いから、そうしていると何だかとぼとぼ歩いているようにも見える。
僕が惨めさを味わうのはそんな時だ。
僕に合わせているから、そんな風になるのだ。
僕とシャルルとでは、あまりにも違ってしまった部分が多すぎる。
置いていかれた、という現実を突きつけられた気分。
もちろんシャルルは悪くない。
これは僕の勝手な八つ当たりだ。

夕陽に照らされたところはちゃんと熱を持っているのに、不意に強い風が吹いて、そんなものさらっていってしまう。

「……風が出てきましたね。そろそろ戻りましょうか」
「うん、そうしようか」

奇妙な安堵があった。
シャルルと散歩するのは、僕にとって楽しみであったはずなのに。
そのわずかな引っかかりは、シャルルの言葉で吹き飛んでしまった。

「そうだ、兄さん、マリアンヌに子が出来ました」
「え?」
「彼女も今年の冬には母親になっていますよ。医師の見立てでは12月に出産予定ですから」

こんな風にシャルルが自分の妃や子供のことを言うのは、めずらしいことだった。
今まで皆無だと言ってもいい。
なぜマリアンヌに限って、そんなことを言うのだろう。
もちろん、彼女は僕らにとって協力者だ。共犯者かもしれない。
けれども、それ以上に、マリアンヌはシャルルにとって特別な存在みたいだ。

「そう。おめでとう、シャルル」

そう言った僕の目が、とてもそんなことを言うようなものではなかったことを、シャルルは知っていただろうか。
僕は、シャルルに嘘を吐いた。

そして、シャルルが言った通り、その年の初冬にあの子が生まれた。


ようやく春めいてきたある晴れた日、僕はアリエスの離宮の小さな庭園の隅にいた。
しばらくすると、侍女を連れたマリアンヌが出てきた。
両腕に抱かれていたのは、まだ小さな赤ん坊だ。
ここからではよく見えないが、包まれた布から覗いている髪は黒い。
マリアンヌと同じ色。
当の彼女はと言えば、何か赤ん坊に話しかけているようだ。
その表情が、遠い記憶の中の僕の母親と重なって、ああ彼女も母親になったのか、と、ぼんやり考えていた。

シャルルがやってきたのは、それからすぐだった。
侍女を下がらせ、しばらくマリアンヌと話していたようだった。
マリアンヌが赤ん坊を差し出すと、シャルルもそれをおそるおそる受け取った。
赤ん坊を覗き込む、その表情。

「ルルーシュ」

シャルルがそう言ったのが、聞こえた。
あの子の名前。
穏やかな顔で、声で、あの子を呼ぶのが聞こえた。
そんな顔を、声を、僕は知らない。
僕以外に向けられるそれを、知らない。

そのとき、ぐるぐると体を駆け巡った感情。
これは何だ。
これは。

やがてシャルルとマリアンヌがルルーシュを抱いたまま、庭園を散歩していくのを、僕は目で追っていた。
シャルルの歩幅はマリアンヌより少しだけ大きい。けれど、二人は並んで歩ける。
僕とは違うのだ。
そのことに、ひどくどうしようもない気分になった。


シャルル、僕と君の見る世界は、きっともう違うものなのだろうね。
そう言ったら、シャルルは何と言うだろうか。
いいえ、何も変わりませんよ。
そう答えるだろうか。
けれど、僕は知ってしまったのだ。


君が、変わってしまったことに。
僕が、変われないことに。


081218 陸
V.V.と皇帝とマリアンヌ。
この家族は愛情は深いんだけど、ベクトルがとんでもなく明後日の方向に向かってしまったんだと思う。世が世なら幸せな家族だったかもよ。
需要とか気にしちゃだめ。


あきゅろす。
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