君の名前をさけぶんだ。 そしたらそれは僕の声を通りすぎてどこか遠くへ行けるんだろう? 「問題。空は何色でしょう?」 一定のリズムを刻みながら汽車が揺れる。足音の様に軽快で、重々しい。 なぞなぞです。と笑うアレンは首を傾げて答えを促した。母親に覚えたての知識を披露する子どもの様な顔。 車窓から見えるは晴れ晴れとした空。任務に向かう時とは心なしか色が違って見えた。 「青、だろ?」 とりあえず当たり障りの無い回答でアレンの反応を見る。当たり前の事を当たり前に伝えるのは難しい。正確か不正解かで言えば後者であることは、アレンの表情から見て取れたから。 (ゆっくりと動く景色がせっかちな汽車とちぐはぐな気がした。) 「当たり。でも外れです」 「何で?」 「空は、雨が降るし夜にもなるし夕焼けにも染まるでしょう?」 「あーなるほど。」 主体性が無いんですよ。とアレンは言う。答え合わせというよりもタネ明かしの様に。 晴れた空に雲が一筋ながれる。それを横目で追いながら、アレンはただただ無邪気に笑った。 「何で晴れた空は青いんでしょうね」 (それは青みたいな短波長の光が大気中の塵や水蒸気やゴミとか微粒子にぶつかって散乱するから。だから、) 言いかけて止めた。きっとアレンはそんな事が聞きたいわけじゃないだろうから。(それを裏付けるようにその表情は期待の色を見せていた) 知識として頭に浮かんだのは結局本意とは似て非なるものだ。 あたかもその目で、耳で感じたかの様に詰め込む。自分で確かめたわけでも無いのに、だ。 (それは自分の口から滑り落ちた時、どれ程の意味を持つのだろう?) 「似合うからじゃねーの?」 殊更明るく聞こえる様に配慮した。空はどこまでも青い。何故かそれが怖かった。 「…似合う?」 「そ。青が似合うから」 (何もあげられないけど何かを掲げて何かを探す) (彼は子どもみたいにただ欲しがった。そういう事) 「じゃあ、雲が白いのも葉っぱが緑なのも?」 「白い方が目立つし、緑の方が映えるだろ?」 「リンゴは?」 「赤い方がおいしそうさ」 コロコロと表情を変えながらアレンは頷く。その笑顔を知識としてしまい込む事が出来る内に。 「じゃあ僕の髪と腕は?」 (いつか口にする日が来るのだろうか?) 「それが一番似合ってるからさ」 無秩序に流れる雲と走り出した汽車。この空は全てを覚えておくにはあお過ぎた。 「あぁ、ほらもうすぐ着く」 「ラビ」 「ん?」 「あいしてますよ。ただそれだけ言いたかったんです」 (或いは言葉と成り得たのだろうか) (07.6.26) [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |