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レッド誕生日おめでとう
(グリーンとレッド)







ささやかだけどお祝い




さわさわ…
夏の木々のそよぎ。

みーんみんみんみん…
それを掻き消さんとばかりに鳴く七日間の命(果敢い)
かっちこっちかっち…
デジタルよりも温かみがあるから、と金髪のあいつからもらった壁掛け式のポッポ時計の音。

ピピピピピピピピ…
止めるのが面倒臭くてそのまま放置のキッチンタイマー。いずれ止まるだろう。

じゅー
ハンバーグの焼けるそれだけで腹の鳴りそうな音。

ぐぎゅるるー
あ、鳴った。



ここは大木戸家のキッチン。
狭くはないが広くもない、一戸建てのものとしてはちょうど平均であろう広さ。
きれい好きの姉のおかげだろう、小綺麗であるべき所にあるべきものがきっちりあって使いやすい。
祖父がここを管理していたときのことが嘘のよう(アレはひどすぎる)

ちなみにさっきの腹の音は俺じゃない。誰かというと。
「グリーン、まだー?」
リビングとここキッチンをつなぐ場所、そこでへたり込む本日の主役。そしてさっきの音の出所。
「はらへったってぇー」
嗚呼また、そんな情けない声を出して
「ほら、もうすぐできるからそこどけ」
は〜い、気の抜けた返事とともに薄茶色の冷えたフローリングの床をずるずるとまるで蛞蝓のように這いながら奥へと消えるレッド。。


今日はあいつの生まれた日。


「はあ…」
少しため息。幾つになってもあいつは変わらない。
今までがそうであったようにきっとこれからも同じなのだろう。
それはうれしい、うれしいけれど!
もう少し威厳と言うか貫禄と言うかそんなものを少しでもいいから身につけてほしいと思う。
せんぱいー等とにこにこと言いながら、どこでもかしこでも平気で言い寄る危ない後輩だっているのだから。
誰にでも好かれ、いつも笑っている。良く言えば(?)天然、悪く言えば鈍感。
そのせいでどれだけ俺が苦労してきたかなんて数えていたらきっと日が暮れてしまうだろう。

しかし、それよりも
それがあいつの長所であるというのが最大の問題。
「ふぅ」
またため息。
ため息を吐けば吐くほど幸せは逃げる、と誰かが言っていたけれどそれは違うと思う。
幸せのため息を吐けば幸せはよってくるし、というかその時点で既に幸せなのだから幸せが逃げるも何もない。
その逆も然り、元からない幸せは逃げられない。

ようは心持ち次第。
現在の自分に対する認識でそんなものはいくらでも変化するのだ。

ちなみに俺のは言うまでもなく幸せのそれ。



じじゅーっ
焼き上がったあいつの大好物をフランス産の誰が作ったとも知れぬ丸く平たい盆のような皿に乗せる。
サラダは別のギヤマン皿に添えてある。
フライドポテトにピーマンの肉詰め、冷蔵庫から昨日作っておいたポテトサラダを取り出すついでにデザートも確認。
りんごゼリー。少し甘めに作ってあるのとそうでないのが二種類、色違い(赤と緑)の吹きガラスに入って仲良く並んでいた。
後は作る時間がなくて買ってきたアップルパイ。

ちなみに食器集めは母の趣味。
きれいだと思ったものを片っ端から買ってきては食器棚に直す。おかげでわが家には食器棚が三台ある。
まあ、母のセンスは確かなものなので暇つぶしに食器棚を眺めるのは結構楽しい。


色とりどりの皿に乗せたさまざまな料理をあいつの待つリビングへと運ぶ。

ちりんちりん…
窓辺にぶら下げてあるハナダ色の風鈴が涼しげな音を奏でる。
見えたのはソファの上にある塊。(=レッド)
カタン、とおいた食器とテーブルが重なる音。
塊が顔をあげた。
真夏の太陽に向かって伸びるひまわりのような顔、キラキラと輝く琥珀色。
そろそろと食器に手がのびて来た。
輝きながらもこちらを伺う瞳をマイナス百度の目で睨んでやる。
「うぇー朝飯抜いて来るんじゃなかったー…」
嘆きが上がる。それでも、
つまみ食いは許さない。





「いっただっきまーす!!」
さっき洗ってまだ手についていた水滴を深緑色のエプロンで拭いながら歓声を聞く。
さっきまで息絶え絶えだったのが嘘のように並べられた料理を片っ端から食べていくレッド。
これだけ嬉しそうに、旨そうに食べてもらえるとこちらとしても嬉しい限りである。
レッドの向かいの席に着く。
「うまいっうまいっ!さすがグリーン!朝飯抜いてきた甲斐があったぜ!」
もごもご!
さっきと逆のことを言っている気がしないでもないが、そこは無視しておいてやろう。
ポテトサラダを備え付けのスプーンで少し小皿に取る。
一口食べる。うん、成功。なかなか旨い。


ごっくごっくごっくん
吹きガラスのコップに入ったりんごジュースを一気に飲み干すレッド。
俺は湯呑みに入った麦茶を一口飲む。
「ふいー」
一段落、らしい。
「うまかったー、あ!まだ食うから片付けんなよ!」
「デザートを取りに行くだけだ」
再び琥珀色が輝く。
現金な奴め。


ゼリーを食べながら嬉しそうに笑うレッド。
俺からのささやかな誕生日プレゼントはお気に召していただけたらしい。



………?
レッドのスプーンを持つ手が止まる。
どうしたのだろう?ゼラチンが溶けきらずに固まっていたのだろうか?
少し冷や汗、ここにきて失敗なんて有り得ないとうろたえる。

不思議そうな顔、口を開く。
「なあ、グリーン。今日食ったものって全部豪華で」
全部オレの好物なんだよなー。というレッド。
当たり前だ。これは俺からお前への誕生日プレゼントなのだから。
なぜそんなことを聞く?わからない。

ああ、嫌な予感。


少し考える仕種。それでもわからないらしい。
純銀のスプーンでゼリーをすくって口に運び本当に不思議そうに俺に聞く。



「今日って何かのお祝いか何かなのか?」













レッド酷い
多分この後みんな呼んじゃうんだ

自分の誕生日忘れるレッド良。










































あきゅろす。
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