うたたね
んこー
大口開けて寝てる。
うっわ、超気持ちよさそう。
つんつん
頬をつついてみる。柔らかい肉に沈む指。ふにふにしていて気持ちいい有り触れ過ぎて陳腐な表現だけどマシュマロみたい。
(噛み付いてやろうか)
もしかすると甘いかもしれない。
さわわさわわ
麗らかなるかな春の昼下がり。
さらさら振れるカーテンの隙間から檸檬色の陽光がちろちろ降り注ぐ。
つきっぱなしのテレビ。
ブラウン管を通して笑いかける顔、彼等は誰に向かって笑っているのだろうか。
テーブルの上。
くちゃくちゃになったナイロン袋と数々の食べかすが散乱している。
こいつの口元。
散乱したナイロン袋に比例する様に、煎餅やら洋菓子やらのかすがおもしろい位に散らかっている。
素晴らしいじゃないか
(憎らしいほどに)
(だって結局片付けるのは僕なんだから)
「ふぅー」
かいてもいない汗を拭う。
当てつけみたいなもの、誰も見ていないけれど。
テーブルの上に散乱していた物達はすべて片付けた。
「残りは……」
例の口周り。
少し湿らせたタオルで優しく、まるで赤ん坊にするように拭いてやる(僕って優しい!)と、それこそ赤ん坊の様に身を攀った+一言。
「……んー……まだ食べるー……」
気の抜けた三点リーダーばかりの台詞、寧ろ寝言か。
倖な寝言。
僕はお前が食い散らかしたゴミを全部、全部片付けてそのうえ口周りまできれいにしてやったというのに。
ぷつり、何かが切れた。
パールの口に指を突っ込む、そんなに食べたいんだったらどうぞ。思う存分喰うがいい。
差し込んだ人差し指と中指を交互に動かす。
ほーら、食え食え。
踊り食いだぞー。
苦しかったのか、『むぅ』やら、『んぅ』など言っている。
くすくすと忍び笑いをしながら指を動かし続ける。
うん、これっていいストレス解消法になるんじゃないかな……
そう思った矢先、あることに気付く。
「…っんぅ…」
よく聞くと、くぐもった声。
頬も軽く上気して…眉を寄せた顔が……すごく
「……色っぽい」
じわり
臍の裏が擽ったいような痺れるような微妙な気持ち
その思いに追い撃ちをかけるように聞こえるそれ。
「…っん。ふぅっ……、」
聞いているこっちが恥ずかしくなるような声まで出して、ああ目の遣り場に困るような顔で喘いで……まるであの時のような……
(やばい、かも)
甘い痺れが躯を侵し、理性の箍が外れそうになる。
或はもう外れているのかも知れない。
このままソファで事に及ぶのもアリかな、と差し込んだ指はそのままに横に座るようだった体制を馬乗りにかえる。
起きたら驚くだろうか、今よりももっと赤くなるだろうか
ぎしり
ソファが軋む。
もぐ
(え?)
もぐもぐもぐ
(あ?)
がりっ
「うっ…わァー!!!!」
指をはむような唇の動きはそのまま咀嚼を促すものに変わり、当然、
脊髄反射とは正にこのことで痛みを痛みと脳が認識するまえに咥内に差し込んだ指を引き抜いていた。
今更のように、激痛が指を貫き思わず大声をあげてしまった。
幸い、血は出ていなかったけれど痛みは止まることを知らず、じわりじわりと指先から染み込むように伝わってくる。指に絡み付き半透明の糸を引いた唾液、憎らしいにもほどがある。(しかえしにパールの服で拭いてやった)
「むにゃむにゃ……」
再び寝言。未だこいつは夢の世界で幸せに埋もれている。
自分の上でこれだけ騒がれたんだから目を醒ましたっていいものだろうに。
怒りにも似た欲がざわざわと迫ってくる。
身ぐるみ剥いで即刻慰み者にしてやろうと若葉色のマフラーに手をかける。
と、また寝言が漏れ出して来た。
「んー、もうたべらんなぃ…むにゃもにゃ」
(え?)
ずるり、どてっ
手がマフラーから離れてから半拍おいてソファから滑り落ちる。
こけてしまった……
何故、ここにきてお決まりの台詞を吐くのだろう、似合わないのかといえばそうではなく、寧ろらしすぎて鼻水が出そうだった。
そして、ソファから落ちるのと同時に先程までの欲望は風船のように萎み、すっかり萎えてしまっていた。
「……ばっからしいよね」
眠り続ける愛し(憎)い人の鼻先を軽く小突く。
「んぐー…」
薄く桜色をした唇の端から漏れるいびきですらも愛お(憎ら)しい。
日だまり色をしたタオルケットをむきだしになった腹に掛けてやる。
頬を撫でる、『むにょ』だとか何とか到底言葉とは言えない音が漏れ出す。
さわり、彼の浅黄色のふわふわな髪を掌でかき上げ、額に唇を落とした。
(愛おしくて、憎らしくて、大好きなひと。君が幸福なら僕も幸福なんだよ)
黄昏に近づきつつある春の陽光はカーテンごしに部屋を暖かく染め上げた。
なんだへたれちっく?
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