ボタリと落ちた液体の正体を知るのに些か時間がかかった。
頬に手を伸ばしぬるりと生温かいそれに触れる。
嗚呼終わったのだ。
あまりにも呆気なく。
目の前に横たわるのは昨日までの自分。
その姿が眼に入ると微笑みながら目を瞑る。見たくはない。あの甘美な幸せを想う己など。
少し前なら綺麗な終わりを迎えれたかもしれない。君と対峙し、完璧なシチュエーションの中、今とは違う涙というものを感傷的に流して。
『さよなら』
それは別れの言葉。そしてそれ以上に終止の呪文。
遅すぎた私達にその呪文は口にできなかった。それを告げることは。
だから、
(傷をつけた。君の中にも僕と同じ甘い傷。
年月経つ毎に深く抉れ燃えるように痛む傷を!)
戻れない。君から離れていく私自らは。
けれど、別れの代わりの傷はどこまでも何処までも私達を繋ぐ。決して治ることもなくその傷が深くなれはなるほどに強く。
余りにも滑稽だ。
余りにも醜悪だ。
離せないから別れられないから今より更に酷い絆を求めることは。
嫌悪嫌悪嫌悪嫌悪。
(でも薄暗くその絆に安堵し歓喜する自分もいる)
その自分が漏れぬよう、目を瞑る。
そして名を呼ばない。
「………京、極堂」
途端、泣きたかった。
今流しているものは涙なんかではない。涙のように美しくない。
(中禅寺 )
アア それは、
(赦 して、)
それは確かに恋だった。
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