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「もういい加減帰りましょうよぉ……」

「イヤだ!初日の出とやらを僕は見たいんダ!」

「何もこんな時間から出掛けなくても良いじゃないですか……。
僕もう帰りたいです。」

「だらしないなぁ猿は!
この時間から行くから、いい場所で感動を味わえるんじゃないかっ!」




「も、榎さぁーん……」




それは一つの愛の告白
(次いで沸き上がるのは切なさと拒絶)




そもそも何が原因だったのか。

何時もみたいに、大晦日に嵐のごとく現れた榎さんに雪絵とのんびり過ごす年末を奪われて、
何時もみたいに、京極堂に馴染みの面子が集まって大騒ぎになって、
何時もみたいに、酔い潰れて寝ていたところを、

そこで榎さんに叩き起こされてこんな状況になったんだ。

いきなり「初日の出が見たい」なんて子供みたいなことを言い出したから。
眠くて眠くて仕方なかったのに、軽々と肩に担がれて、何処から用意してきたのかなんだか高そうな車に乗せられて、起きたらなんだかよく分からない町を離れた山に近い場所だった。
頭があんまり働かなくて、状況をやっと理解したのは、山を登り出して息も切れてきた時だった。

「どっ、何処まで登るんですかぁ……っ!
もう僕無理ですよ……っ。」

「あと、もう少しだ!頑張りたまえ関君!」


悠々と登る姿はこんなときでも綺麗で、汗一つかいてない。
それに比べて自分は山の冷気に当たっているにも関わらず、顔が熱いし、汗も流れていた。
足取りも重くて、正直もう立ち止まりたくてどうしようもなかった。


「もう厭です。僕はここで待ってますから、榎さんだけで行ってください…」

へたり、と遂に山道でしゃがみこみ、息を必死で整えながら、それだけ榎さんに告げた。
足が痛いし、汗のせいで少し寒かった。
俯いて脱力していると、ザクザクと足音が引き返してきた。
気を損ねたのかなと少し身構えていたら、急に体がふわりと浮いた。

怒られるのだとばっかり思っていたのに、いきなりまた抱えあげられてしまった。
来るときにされたときは眠くて仕方なかったから気が付かなかったけど、今切実に思う。


死ぬほど恥ずかしい。



「やだ、っ……榎さん下ろしてくださっ…い!」

「猿は仕方ないなぁ!神が直々に抱えてやってるんだ!感謝しなさいっ!」

「いいですー!ほんと、待ってますから下ろしてください……っ!」


榎さんの肩の上は位置が高い上に安定しなくて正直怖い。
でもそれ以上に綺麗な榎さんの服とかにまたじっとり汗をかいてしまうんじゃないかとか、寒かったのにまた熱くなってきた顔の温度と荒い心拍数に気付かれそうだとか、
そんなことばっかり考えてしまって頭がこんがらがってきたまま、口をパクパクさせて(失語症)結局どうすることもできずに更に山を上った。

反抗するのも諦めてされるがまま、ゆらゆら揺られながら進む。



「榎さん、……」

「なんダ?」

「なんで僕を連れてきたんですか…?」

「なんでだろうなぁ。猿なんて絶対手が掛かって仕方ないのにな!」

「………」



「ほら、着いたゾ。見たまえ!!」








抱えられた状態じゃ榎さんの視線の方向を見ることができないから、無理矢理腰を回して振り向く。

途端に、目を見開いた。


「…………綺麗じゃナイかッ!」




そこにはあまりに眩しくて白い光が榎さんと僕を照らして輝いていた。
言葉なんて出るはずがない。
その輝きはただただ優しく温かく、全てを真っ白に染めるよう。


「すご……い。」


やっと出たのはその呟きと溜息。
今まで厭で仕方なかったことも全部融かされて消えてしまった。



見惚れていると榎さんがなにか呟くように言ったから。


「………だ。」

「え?」

思わず聞き返すと、彼は光に負けないぐらい綺麗に綺麗に微笑んで。



「この輝きを一番に見せたかったのが君だ。」



そうとだけ告げては、今まで抱えていた僕の体を地面に下ろし、すっぽりとその体が埋まるほど深く抱き締めた。

その腕の中は山の冷気なんて負けないぐらい熱くて涙が出そうになった。

なにも言えないまま、只背中に日の出の熱だけを感じながら僕は必死に唇を噛んで涙をこらえた。速くなる心拍数は自分だけではないと感じて。


朝がこんなに静かなのを少しだけ切なく想った。





(補足。
京関前提榎さん片想いです。
最後泣きそうなのは気持ちに答えられないことが榎さんを傷付けると分かるからです)












あきゅろす。
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