うとうとと春の陽気に誘われて眠りかけた。
暖かく、近くの樹から香る藤の香りは心地よい。
藤の願い
ふいに肩に何かがもたれかかってきたので目が覚める。
眼をそちらに向けてみると関口がすぅすぅと寝息を立てていた。
完璧に眠りこけているらしい。
少しムッとしたので押し返そうと手を掛ける。
しかし少し押したところでやめた。
肩を貸してやろうと思ったわけではないけどその日は気分が良かったから。
屈むこともできないので、手から滑り落ちた本を拾うこともできなかった。
少しため息をついて関口の髪を触る。
さらさらと指の間を少し癖のある猫毛が擦り抜けた。
唯それだけなのにふっと笑みが浮かんできて、本を拾えないこともどうでも良くなってしまった。
相変わらず君と一緒にいるとどうしようもなく安心してしまって、つい眠ってしまうのだけど、
今は昔のようにあまり近くにいて頼ることはできない。
けど未だ傍に居させてほしいんだ。
触れ合うことは 世間が、愛する人が、自分が許さなくても、一緒にいることが唯幸せだから。
昔は云えた言葉を今となって君に届けるほどの勇気はないよ。
…『別れてあげられなくてごめんね』
君が眠っている姿など日常的なものだ。
けどこんなに陽気に心地よい日になると、何故か藤の香りが吹き抜ける。
そしてあの日の事を思い出しては苦笑い。
馬鹿みたいにいつまでも一緒に居れれば、と願っていた若いとき。
結局願ったとおり今でも一緒に居るのだから笑ってしまう。
相変わらず中途半端でどうしようもない自分達けれど、そんな関係を望んでいる自分はとてつもない物好きなのだろう。
触れることは許されないのだと。
けどこんな日はそっと髪を撫でてみるほど些細な変化があってもいいと思う。
本当に笑ってしまう。
なんて―――なんて不器用な大人(ぼくら)。
君と居るから安心できる、そっと握った制服の袖。
きっと君は気付いていないんだと心で思ってはどうしようもなく幸せ。
嗚呼 こんな関係が続くのなら。
淡い淡い願い。
そして互いが互いに気付かない共通の望み。
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