桜が散る雨のような
そんな美しさに出逢った。
美しく咲く花弁など微塵も気にせず、力強く降り注ぐ雨に打たれて、
畢り(おわり)を悟った。
青春を桜花セヨ
卒業式は雨だった。
しとしとなんてものじゃなく、ざあざあと全てが掻き消されるような騒音をたてて降る雨の日の式は、きっといつもより感傷的で淋しさより虚しさを煽る。
ああ、今日でこの学校とも離れるのかと、他の生徒のように感傷に浸り、悲しみの涙の一つでも流そうかと思ったが、乾ききったカラカラの眼からは何も流れることなんてなかった。
むしろそれから先に続く進学に伴った忙しさや、住居を寮から一人暮らしに切り替える緊張。
それらが先走って自分の中に宿り、卒業する身独特のあの気持ちにはもはや成れないようだった。
ばたたっ
ぼたっ
ざあ ざあ
が たがた
降り注ぐ雨の奏でる雨音に耳を傾け、暫し目を瞑る。
そしてゆっくりと開き、窓から外を見ると、こんな中出掛けていた中禅寺が傘を差して寮に帰ってくるのが見えた。
雨と一緒に降る桜の花弁を肩と足元に色が薄紅色に染まるほど積もらせて歩く。
やたら色が黒い傘と学生服に映えて美しかったので見とれていると、遠くでも視線に気付いたのか、顔を上げた中禅寺と目が合った。
その顔を見て、今日で一つ高等学校という閉鎖された空間から解放される僕らには、
この見慣れた顔でさえ、見れなくなり、当たり前にすごした寮での共同生活さえ、その秘密めいた今の僕らにしかわからないであろう、その空気すら失ってしまうのだ。
そして、
今度逢うときに彼はきっと僕の知らない顔をして、
彼のふりした何者かに成ってしまっているのだ。
桜の花弁が散るのを、
雨が時を進めることを、
初めて恨み、悲しいと思った。
(だってあの頃の僕は今日という日を境に死んでしまった。
もう手に入らぬ幻想。
君のそばにずっと居られる僕ではないのだ、既に。)
その日初めて流した涙は、謳歌しきれなかった青春と共に流れていて、
明日に続く新しく知らない悲しみの君の姿に繋がるのだ。
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