「なぁ笑えよ。」
散り花の出征
日も随分と傾いた時刻となった。
「榎さん…。」
きれいに微笑むは西洋人形。本当にこの人は同じ人間なのか疑わしいほど美しかった。
そしていつも見惚れてしまう自分。
今日の彼はとても優しい、そして同時にとても厭な人だった。
「こら、関。お前はまたそんな顔して」
そういう彼は本当に優しく手を延ばした。
でも延ばされる手を取ることができず俯く。
前を見ることができない。
「…お前も僕のことをそんな眼で見るか?」
行き場を無くした手を降ろさずに榎木津は静かに呟く。
「ちがっ…!」
思わず否定したがもう遅い。その言葉が嘘を吐いていることなんて彼が気付かないはずなくて、酷く自分に嫌悪した。
再び二人を包む沈黙。
どうして自分はこんな彼にとって貴重な、もう巡ってくるはずのない(最も自分が思っているだけなのだが)刻(とき)を削ってしまってるのか、訳が分からなくてただ涙を堪える。
行き場を無くしていた榎木津の手はゆっくり降下し、そっと関口の頭を撫でた。
そしてあやすように語り掛ける。
「生きてる、なぁ僕は生きてるんだ。だからもう泣くなよ関」
泣くなと云われたら更に涙が溢れてきて、自分の意志では止められなくなる。
落ちていった涙は黒い染みとなって消えていった。
榎さんは間違ってる
生きてるからってなんなんだ
これから死の戦場にむかうのに。
言葉なんてもう役に立たないのに。
なのに、
「榎さん…」
「うん。」
「榎っさ、ん…!」
「うん。」
「…さよならなんて云わない、」
『またな』
声が夕焼けに散布する。
笑いながら貴方が消えた。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]
無料HPエムペ!