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私が完全に融けたらすぐきちんと召し上がれ。



TRICK Chocolate days



目の前にちょこんと置かれた箱からは、仄かに甘い匂いが漂っていた。

如月の十三日。
いきなり家にあらわれた榎木津に急に小さな箱を渡された。

関口がきょとんとした顔をしていると、その箱を持ってきた当人である榎木津はまったく偉そうな態度でこう言った。

「神が直々に猿にチョコレイトをあげようじゃないカ!有り難く頂き給え!」

そういわれたものの、今だに関口にはこの可愛らしい箱のもつ意味が分かってなかった。

「はぁ…、有難う御座います。でもなんでチョコなんですか?」

そういうと榎木津は一瞬何かを考えた顔をしたかと思うと、それはもう嬉しそうな表情を浮かべた。(関口はこんな表情をしているときの榎木津が、厭なことしか考えてないとよく知っている)

「関!お前、あの馬鹿本屋にチョコレイトあげてないだろう!?」

「え?あげてないですよ。だってあげる理由がないじゃないですか」

本当に意味が分からないと言った表情を浮かべる関口に向かって、榎木津はにんまりと笑いこういった。

「関君、神の命令ダ。

明日までに何かチョコを買って京極のヤツにあげるんだ。

絶対明日だぞ!」








そうきつく言われ、意味が分からないと思いつつ近くの店で買ったチョコレイトを片手に目眩坂を登っていた。
いきなりチョコを貰ったり、京極堂にあげろとか、ちゃんと返せとか命令され、正直意味が分からなくて関口は少しばかり混乱していた。

ぐるぐるとそんなことを考えていると目的地である京極堂に着く。

いつものように「骨休み」の看板が掛かっているが、気にせず中に侵入すると、思ったとおり帳場でいつものように本を読む京極堂が視界に入る。

「やぁ」

そう告げると京極堂は顔を上げてじろりと睨むようにこちらを伺う。

「君は、文字すら読めなくなったのか。おもてに休みだって書いていただろう?」

「そんな事言ったっていつもこんな感じなんだからいいじゃないか」

関口が口を尖らせていうと京極堂はやっときちんとこちらを向く。

「まぁいいさ。君はいくらったって聞きやしないのだからね。

さて今日の用事はなにかねセンセイ?」

関口をからかうように問う鋭い視線に少しドキっとする。
目を見ていると赤面症を発してしまいそうな気がして(榎木津じゃあるまいし!)目を逸らした。

そしてはたと本来の目的を思い出す。



チョコレイトだ。



「京極堂」


忘れていたチョコレイトの存在を思い出し、慌ててカバンを探る。



「なんだい」

再び本を読むことを始めた京極堂は顔も上げずに返事をする。



「これ」



そういって差し出したのはスーパーにならどこでも売っていそうなチョコレイト。
しかも板チョコだ。



それでも、京極堂は関口が差しだしたチョコを見たまま固まってしまった。

しかし関口はそんな彼の反応の理由は今だに分からず、先日と同じようにきょとんとした表情。


「……君がわざわざ今日此処にきたのはこんな乙女のような理由だったってわけか」

そういってくす、と笑う京極堂に関口はさらに眉をハの字に下げる。

「え?僕はただ…」

意味が分からなくて狼狽えている間にも京極堂は、板チョコを割り口に入れてる。
辺りにはカカオの香りがふわりと広がって。


「お返しは期待しといてくれていいよ。関口くん」

にやりと笑う京極堂に急に口付けられて、歯列を割られる。

「んっ…、…!」

入ってくる舌と共にチョコレイトも押し込まれてさらに香りに包まれる。


酷く甘い口付けだった。


「は…、いきなり何すっ……!」

やっと唇が離れた関口は顔は真っ赤、息も肩を揺らしているほどだ。

そんな様子の関口に京極堂はさらに口角を引き上げ、しれっとして言う。

「まぁ来月を楽しみにしていたまえ」








其の後家に帰って、雪絵からチョコレイトを渡されたとき初めて今日がバレンタインだと気付いた関口。


(だ、騙されたっ…!)


赤面症を再び発症した関口に、掛かってきた電話の榎木津の声があまりにも楽しそうだったのは言うまでもない。





(京関)













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