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海、
海は恐い

でも




終末


煙草の煙を吐き出すと、この世界に居るのを惜しむようにゆっくりと消えていった。

寒空は高く高く飛ぶ鳥の声に切れる。

煙草を投げ捨て足で火を消す。

京極堂を後にした帰り道のこと。

踏み潰された吸い殻は汚く地面にへばりついた。





感傷に浸る必要なんてない。
自分達の関係は綺麗なものじゃないし、今更傷付く事もない。


ふとそんな言葉が頭をよぎり、つい先程の会話を思い出して何故か笑えてしまった。

惚れた腫れたなんて言っていたって結局は他人。
何も本当の事など分からない。

(そう、言葉なんて幾らでも嘘を吐けるんだ。)

頭で弾けた言葉がひらひらと散る。




今でだからこそそんなことを言えるのだけど

それでも自分にだって、真剣に愛や言葉を信じた日がちゃんとあった。






荒れた海。

見るところなどどこにもないのに、海に行かないか?と呟いただけで本当に来てしまった学生時代の彼の思考が分からなかった。

何をするでもなくただ海を眺める。

人が死んでいるような海だった。自殺とか心中とか海にさらわれる行為。


「………………」

「………‥」

「なぁ、」

「何だい関口君。」

「どうして来たの、海。」

「愚問だな。君が行かないかと誘ったんだろう。」

「そうじゃなくて。」

「そうじゃなかったら何だい?」

「その…厭じゃなかったのかい?」

そう問うと中禅寺は微かに眉をあげて、別に、と呟いて視線を海に注ぎ続けた。

その様子がまるで自殺志望者のようで、あまりの似合わなさに笑いそうになった。

「………」

なんだかもう全てどうでも良くなってしまった。
何故来たかなんてどうでもいい。


「……中禅、寺」

「何だ」


「…………キスしてくれないか。」




ふっと目を細めたらすぐに中禅寺の顔がすぐ傍にあって。
海岸に長時間立っていてすっかり冷えきった唇に、意外と暖かいそれが一瞬だけ重なった。


「……キスは嫌い?」

「どうして」

「だって君、いつも凄く潔癖っぽいぜ」

「ああ、どちらかといえば言葉のほうが好きさ」

「じゃあキスしなくてもいいのかい?」

「嫌だ」


どっちなんだと意味が分からなくて怪訝な顔をしてると、中禅寺は微かに笑って言った。


「僕は潔癖である前に、君のすべてを知っていたいと思うからね」


また酷く恥ずかしいことを言う奴だ。と思う。
だってきっと今の自分はこんな言葉にさえ顔を真っ赤にしてるに違いないから。



「知らない。」

「何が。」

「中禅寺なんて知らない、よ。」




君のせいだ。



真っ赤な顔が戻らないのも、足ががたがた震えてるのも、全部全部、



この心が哀しくなるぐらい切なく締め付けられるのも。




君のせいだ。






ざりっと踏み付けられた二本目の煙草。
辺りに漂う紫煙はすぐに掻き消えた。




あれから何年経った。

今残るのはあの時の切なさだけ。


お願いだから

この恐怖を拭ってよ。




あの時言った言葉は本気だった。
気持ちのうえではいっそ死んでしまたいと思った。





耐えることができなくなるぐらいの愛にいつか終末。












あきゅろす。
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