願うよ
この幸せがつづくなら
始まりは君に
かちりかちりと時計が時を刻む。
忘年会はいつものように榎木津が指揮をしてやった。
みんなが集まるという理由で京極堂で(いつもより京極堂の眉間の皺の数が多かったような気がする。)
酒が入ってきたら何やらよく分からなくなって、結局眠ってしまったようだった。
目を覚ますと辺りはもうとっくに暗くて静まり返っていた。
時計を確認するとまだ年は越していないようで、深夜0:00の十分前を指している。
榎木津のことだから朝まで飲むのかと予想していたため、予想を裏切られ、少し肩透かしを食らった気分になる。
座敷で眠っていたらしくきちんとかかっていた布団から抜け出し、彼を探した。(周到さに少し笑みが零れる。)
いつもの主の部屋に入ると素晴らしい散らかり様に少し驚いたが、自分の部屋とたいして変わらないと気付き、その部屋を抜け外へと出る。
外に出ると月の明かりが眩しく優しく自身を照らしていた。
自然と体は神社へと向かう。
彼がそこにいるなんて保障はないのだけど、ただ漠然と意味の分からない確信があった。
「京極堂。」
神社の前に立つ彼に声をかける。
ゆっくり振り向いたその顔に笑みが浮かんでいるのは、気のせいだろうか?
「起きたのか。」
「うん。」
「まったく君は本当に酒に弱いなぁ。あのまま寝ながら年を越すのかと思ったよ。」
「なっ…!それは榎さんが」
呆れた声を出されてむっとし、思わず反抗をしてやろうとしたら急に京極堂に口に指を当てられた。
反射的に言葉を切る。
京極堂は手元の時計を確認していた。
「ほらあと一分を切ったよ。……――10……5………3…2…1…」
「零。」
零の言葉とともに急に引き寄せられ、抱き締められた。
あまりの驚きに言葉も出なくて、ただ京極堂の腕の中で口をパクパクさせる。
「明けましてお目出度う?関口君。」
低い声で耳元で囁かれ、頭に鈍く麻酔が広がる。
力が抜けた体を支えるため、ただ必死に服の裾を握っているだけしかできなかった。
そのまま最高に甘い口付けをされたら、もう何も考えれなくて―――…
「君にっ」
「うん?」
「除夜の鐘なんて全くきかないんだね。全然煩悩なんか払えてない。」
キスの余韻に顔を真っ赤にしながら必死にそう告げると、京極堂はにやりと笑い、いう。
「馬鹿だなぁ。除夜の鐘は去年一年にたまった煩悩を消すためのものだろう?
僕のこの煩悩は今年のものだぜ。」
「……本当に君は馬鹿か。」
「馬鹿で結構。」
飄々とそういう京極堂にもうどうでもよくなって少し笑った。
手を繋いで神社の前で座って夜明けを待った。
少し新しい感じがするなんて言ったらやはり自分は単純だろうか。
「………そういえば、どうして僕が眠った後に榎さんや旦那に家まで連れていくように頼まなかったんだい?
わざわざ寝かしといてくれなくてもよかっただろう?」
「嗚呼、それはね、」
「今年一番に年明けの喜びを伝えるのは君だと決めていたからさ。」
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