くらくふかいうみのなか。
心中ごっこ
なんて変哲のない朝。
馬鹿みたいに澄み切った空に墨を垂らすような。
暗転。
土砂降りの雨が降るなんてないけど、空を見上げて睨む。
頭のなかでは幾度となく雨が降り注ぎ、堪らないほどの豪雨。
濁った水は混沌と頭を駆け巡り、結局はどこかに消えてしまう。(否、吸収されているのだ、己の中に。)
スパンと開いた襖を見やれば、また変哲もなく君。
今日も不幸を背負ったような顔をして。
なんだ君かってわざと厭そうに言い放つ。
そりゃないだろ、と返しつつ勝手知ったる他人の家、君は冷えてしまった湯を新しい湯に入れかえるべく台所に消える。
千鶴子さんはいないんだね、とか変わらない話題。
いつもと変わらないような気がしていた現在、
ふと君を見た。
声をかけてやるわけでもなくただ沈黙。
「ねぇ京極堂。」
しかし君はいとも簡単にその沈黙を破る。
「心中しよう?」
へらりと笑顔。
轟々。
さっきまで晴れ渡っていた空から急に降りだす雨。
と、いうのはまたしても頭の中だけで、やはり虚しいほどに晴れ渡って澄み渡って抜ける冬の空。
その問い掛けに何を云いだすのかと問い返すわけでもなく
つめたい海の中へ君と沈む妄想をしてみた。
手と手を取り合って足を踏み出しちゃぷんと浸かっていく。
ざぶざぶと進みついには肩まで沈む。
只でさえ白い君の顔が寒さのせいで白さを増していた。
繋いだ手をぎゅっと握る。荒ぶる風だけでここは静か。
最期に互いを見合い、交わした言葉で飾ったって、
この行為に勝る言葉なんて見つからないんだろう。
視界は白い―――…
「なん、てね。」
急に白の視界がいつもの部屋に戻る。
海のなかに沈んでいる訳が無く、かわらず君は笑ったまま。
「本気にするなよ。」
冷えきっていた指が湯気を立てる湯呑みを掴む。
その指は仄かに紅い。
その紅さに見とれるような感情。
「厭だね。」
唐突に切り出してみる。
君の眼は見開かれる。
その顔が見たくて、
「君の身体に触れられなくなるなんて真っ平御免だよ。」
そう云ってにやりと笑い、顔を上げる。
君の泣き笑いのような顔だけ見えた。
少し頭を駆け巡る濁った水が浄化されたような気がした。
雨が止むのもあと少し。
(京関)
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