[携帯モード] [URL送信]




君が云ってしまったから、僕は満足に死を選ぶことすらできない。




帰郷の標






いつも隣にあるのは死の匂い。

肉が腐っていく生暖かい感触にはいつしか慣れた。
人間というものは、慣れてしまえばどんな残酷なことでもすんなり目を向けられるようになるらしい。



今日は何人死んだ?

明日は何人死ぬ?





外国の強い陽射しの下、私はふやけた頭でぼんやりとそんなことを考えていた。
しかしそんな下らない考えは直ぐに吹き飛んでいく。

「隊長さんよォ、気を失うのは勝手だが、助けた俺の身にもなっちゃあくれねぇか?」

「木場…?」


唯一人残った部下の声に正気を取り戻した。


この訳の分からない狂った現実のなか彼の存在だけが真実のような気がした。



しかしもう何もしたくなかった。
何度も呼び掛けられ励まされているが、精神の限界を感じた。


疲れてしまったんだ。


そんな私を見た木場はぽつりと云う。

「…あんたは国に帰るんだろ?俺だって帰りてェ。」




少しづつ言葉を思い出す。


なんだったっけ?懐かしいあの世界。



声が耳に浸透してゆく。


「こんなわけの分からねぇ戦争でなんて、こんなどこかも分からねぇ国でなんて」




声が聴こえる。




唇を噛んで嗚咽を耐えた。
今哭くわけにはいかない。




「こんなところで野垂れ死になんざぁ…」


死ぬわけにはいかない。








還るんだ、あの世界。









「して堪るものか」




唇をギュッと噛み締める。

血が出た。まだ生暖かい。
生きている。
生きているんだ。



『必ず還ってこい』
君の言葉。





「…かぇりたぃ」






華々しく出征していく若き命。
くる日もくる日も誰かが散る。



あの日の夜に君は僕にこういった。


『君に生きろとは云わない。死ぬなとも云わない。』
『でも唯君にこの言葉を云うよ。』

『必ず僕の許に還ってこい。』




きっと還る君のいる地。

そのために私たちはまた歩きだす。

足取りは軽くはないが確実に進む。

君が云ってしまったから、僕は満足に死を選ぶことすらできない、






また逢いたいなんて願ってしまうじゃないか。














第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!