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ちゅうぜんじと呟く声だけ静かに響いた。




The night
    then tears fall






何も動かない部屋の空気はどんよりと燻っていて、今目の前にある状況を霞ませている。




小さなアパートの一室なんて大した広さはない。

自分のすぐ下で息絶えたように布団に沈んでいる関口を見つめ、これでも距離をとっていると榎木津は自分に言い聞かせたが、その距離は手を延ばせばすぐに肌に触れる距離だった。





「関。」


すっと手を延ばし関口の足首に触れる。

それまでぴくりとも動かなかった関口がびくっと体を震わす。



「関。」


つつ、と指を滑らし、寝巻から伸びる足を辿る。




えのさんと小さく呟いたような気がした。だから滑らしていた指を止め、急に足首を掴んで自分の所まで一気に距離を詰め、荒く掻き抱いた。



「………」





静寂は破られたが、沈黙は続いたまま




掻き抱いたのは顔を見ないためだった

君がどんな顔をしてるのかなんて容易に想像がつく、

それとともにいつも想像なんてつかないぐらい掴めない。






闇の中で独り、踊りを踊るように





「………関、なぁ僕は、」
「ぇのさん………」


今度は確実に聞こえた自分に対する呼び掛け。

抱き締める腕の力を更に強くする。


君が消えてしまうわけでもないのに。





「ねぇ榎さん、服に皺がよってしまうよ?」


散々の沈黙の末に出てきたのはそんな社交辞令みたいな言葉。



カッとなって関口の身を自分の身体から離し顔を見る。





嗚呼その眼を見るのが厭だったのに





「なんでそんな事より自分を気にしない?」






深い海、


のごとき闇の瞳






見ているとすいこまれそうな。






(きみは自分が汚くて仕方なく思っているようだけど、


綺麗で、凄く綺麗で、
守りたい、



     と思った)








力なくずるずると関口の肩に顔を伏せる。

そっと背中に回された腕に淋しくて堪らなくなった。



好きなんて言葉じゃ言い表わせないと想いを抱えて。

でも言葉以外の方法で気持ちを伝える手段だって知らない。







(たまらなく愛おしかったけど、心が潰れてしまうぐらい切なくて叫びたかった)







「すきだ。」









なんて陳腐な告白。







言葉は部屋の空気にまかれて煙のように消えた。

空に還っていってしまう。







「僕のこと、好きですか」

二度目の沈黙を破った台詞。
その声は擦れていた。枯れるまで涙を流したあとのように。







「せ…、っ!」







身体を強く押され、倒れた上から口付けられた。








少しして離した口は細く銀の糸を引く。





「僕のこと、ほんとに好き、で、すか ?」


濡れた目で切なく切なく吐き出された小さな疑問。










彼女の白い衣裳が頭から離れないんです 。











ポタリと涙が落ちる音と共に、ちゅうぜんじと呟く声だけ静かに響いた。












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