[携帯モード] [URL送信]
佐々木さんがファーストフード店の席に着く為に腰を屈めた時、
ぱさりと落ちて来た一房の横髪を優雅に耳に掛ける仕草に
あたしが見惚れたのは何分前だっけ。
あまりに素敵で、あんまり長い間あたしがぽーっとしてその顔を見つめ続けるから、
「何か顔に付いてる?」
と不振に思ったんだろう佐々木さんに聞かれて、首と両手を左右にぶんぶん振った。
「いいえ!
何でもないのです。ごめんなさい」
「そう?ならいいのだけれど。
注文の品が届いてすらいないのに、橘さんに注目される何かが
何らかの拍子で顔に付いていたのだとすれば、それは手洗いに立ち鏡の前に立った際
若しくは君が教えてくれない限りは中々気付けないだろうからね」
警戒されているのか、あたしと話す時の彼女の口調は普段はもうちょっと柔らかいのに、
藤原さんと話す時の堅苦しい物に近かった。
自分が彼女に向けていた不躾な目線に今更気付いて、しょぼんと項垂れる。
あぁあ、不愉快に思われてしまったのかも。
あたしは頭を下げたまま、ちらちらと目だけで佐々木さんの様子を伺う。
あたしの目に映った彼女は、何事も無かったみたいにポテトを小さく開いた口に入れた。
ぐっ、あんまり気にされて無いというのもそれはそれで…
じゃない、こんな風にうだうだ考える為に来たんじゃなくて、
ましてや佐々木さんの顔をじーっと見つめる為に来たんでもなくて…
と、結局はうだうだ考え込んでしまって、あたしの
『佐々木さんと仲良くなろう計画その一、
ねぇ佐々木さんのイチゴシェイク、ちょっと味見していい?』
は不発に終わってしまった。
まあ、佐々木さんはポテトのSしか注文しなかったからどの道無理なのだけれど。
ハッピーセットをおもちゃ目当て、だってスヌーピーだよ?
で買う気満々で佐々木さんの後ろに並んでいたあたしは、
彼女の注文を聞いて慌ててオレンジジュースだけを注文した。
ストローを唇ではみはみしながら思う事は、
藤原さんが聞けば鼻で笑われる事間違い無しで、
九曜さんからはスルーの刑発動率百パーセントで、
けれどあたしにとっては凄く大切で重要で希望に満ち溢れていて、つまりは。
ああ、いっそ佐々木さんの方から、
そのオレンジジュース、少し分けてくれないかな?
って言ってくれれば、京子はいつでも…
「喉が渇いてしまった。
ポテトだけではやはり駄目だね」
「どっ!どどどど!!」
どうぞ!良ければあたしのオレンジジュースを!
あたしがはみはみしたストローで!!
と言いたいのだけれど、いきなり具現化した妄想…じゃない、
乙女のちょっとした夢に驚きと喜びが綯い交ぜになって舌が回らず、
こうなったら態度で示すのです!
とばかりにがばっと椅子から立上がり、右手で紙コップのお尻を支え、
左手を紙コップに添えて佐々木さんの唇へと唇へと――
「『どどど』?
道路工事の物真似かい?」
「ちっ、ちが…」
「ふふ、可愛いね」
緩く握った手を口元に持って行って、あたしの女神様はくすくすとくすくすと――
可愛いのは、あなたです……
あたしはまたもやぽやーっと、今度はさっきと違って俯いていないので
前髪に隠れていない佐々木さんの顔を正面から見つめていた。
彼女は差し出しされた紙コップを見て、
「有り難いのだけれど、果汁は甘過ぎて口に合わないんだ。
別の飲み物を買って来るよ。失礼」
と席を立ってレジの方へと歩いて行ってしまった。
ああ、そう言えば、この前古泉さんと涼宮さんのお仲間の彼とお話をした時も、
飲み物は全員ホットコーヒーでと頼んだのは佐々木さんだっけ。
彼女が歩く度に揺れるスカートの襞を見ながら、
って何もそんな所見なくても、もっと首筋とかふくらはぎとかあるでしょ京子……あれ?
あたしは不発に終わってしまった今日の作戦の第二弾を考えた。
『佐々木さんと仲良くなろう計画その二(実質その一)、
佐々木さんって、警戒しちゃうと女の子相手でも口調堅くなっちゃうんだね。
気付いてた?』
ううん、警戒は緊張に変えておこう。
どうしてあたしと一緒にいたら緊張するの?
って運べる分、そっちの方がおいしいし。
なんて考えながら、あたしはまだ帰って来そうにない
佐々木さんのポテトをこっそり、こっそりと摘んだ。





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!