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「前回までの粗筋です。
とりあえずなんかそんな感じの展開を繰り広げた放課後、機関から定期報告の催促がありました。
………
…な、長門さんがいらっしゃらないので、必然的に独りボケ独りツッコミになりますが…
そしてこの前フリも全て僕の虚しい独り言になってしまうのですが…
とりあえずなんかそんな感じ、って粗いにも程があるでしょうが…
……えーと…
………
…だ、だめだ。僕一人では間が持たない…!
………
……あ、じゃあ早口言葉を…
あかまきまみ…
………
あかまきがみあおまきがぎっ!うあっ!
………
し、舌…噛んだ……
………
えーっと…
…あ、コンセントを差し込む穴って、右より左の方が少し大きいんですよ、ご存じでしたか?
…………
……花嫁修行危機一髪・完、スタート…」


 新川さんに電話を掛け、自分の今の居場所を伝える。
毎回のことで、森さんの送迎のついでに僕も拾ってもらう。
「その手は?」
到着したタクシーに乗り込んだ途端、後部座席に座った森さんに鋭い声で聞かれた。
彼女は、僕の右手の中指と手首に巻かれた包帯を睨むように見ていた。
「体育の授業がバスケでして。僕としたことが突き指をしてしまいました。
手首は、その時に床に手を付き損ねて捻ってしまいました」
本当のことを言ってもいいのか悪いのか、区別が咄嗟にできなかったのでそれらしい嘘をつく。
ひとりの少女を救ったはいいものの、詰めが甘くて負傷しました――
そう言えば森さんに小馬鹿にされるのは確実で、その少女がインターフェイス(機関で言う所のTFEI)の長門さんだと知られたら、
ああそうですか、とはなかなかいかなさそうである。
「鈍臭いわね」
「あはは…」
僕や長門さんの背景事情に複雑なものを覚えつつ、
新川さんが舵を取る車は無事に機関の一施設に到着した。

「それで?今日は何故床屋に迎えを呼んだのかしら。いつもは美容院ではなかった?」
会議室に向かう途中、僕の隣でフロアを闊歩する森さんに引き続いて尋問される。
「手を負傷したのは三日程前の事で、本日涼宮ハルヒに無精髭を指摘されまして、その処置をと」
カッターを持った長門さんに追いかけ回されたことは勿論伏せる。
彼女の行動は陰謀があっての物では無い、
といくら僕が主張しても、聞き入れて貰えないのは目に見えているからだ。
「あらそう」
森さんが興味無さそうに答え、僕達の前を歩いていた新川さんが、
ある扉の前で立ち止まり、ノックをする。
「古泉一樹、森園生両名を連れて参りました」
部屋の入口に立ち、頭を下げる。
「お待たせ致しました。古泉一樹、只今参りました」
「同じく森園生。失礼致します」
指定された席に座り、近状報告スタート。
が、会議の内容をひとつひとつ書いてもしょうもないだろうから、
異変が起きた時間まで物語をすっ飛ばそうと思う。別に面倒臭がっている訳ではない。
「本日の涼宮ハルヒですが、特に変わった様子は――」
その時だった、先程僕が言った異変が起きたのは。
「ぱーんぱっかぱ〜ん!ぱかぱっかぱっかっぱ〜ん!!」
「!?」
椅子から飛び上がりそうになった。音の発信地を探すまでもなく、余りにも近い所からそれは鳴り響いている。
「めろんぱんなちゃんだよーっ!!」
びたっ、と会議室に充満していた空気が、元から固かったと言うのにますます固くなる。
ごほん、と一人がわざとらしく咳をする。
「…森、会議中は電源を切っておくように」
「わたくしでは御座いません」
ばしっ、と森さんは噛み付くように反論し、右隣の僕を睨み付けた。
顔が否応なしに熱を持っていくのを感じながら、僕はそろそろと手を上げた。
会議室にある全ての目が僕に突き刺さる。目線がレーダー光線だとしたら、今の僕は間違いなく粉微塵だ。
「切りなさい」
「は、はい…」
タクシーから降りる際に電源は切っていたと言うのに、電話の着信音は始めから携帯に入っていた味気無い着信音2だったと言うのに、
こんなことを出来るのは、僕の知り合いにはせいぜいふたりしかいない。
重苦しい空気が肩に伸し掛かる中、僕は震える指で携帯を取り出し、
誰からの着信か確認もせずに、素早く電源を切ろうとした。
が、
「長門有希からです」
左隣の新川さんがそう言った瞬間、森さんに携帯を取り上げられていた。
相変わらずの視力とコンビネーションである。
やっぱり掛けてきたのは長門さんだったか。
「長門有希?TFEIの?」
訝し気に眉を寄せ、僕達の上司は、
「出なさい。音量をここにいる全員が聞こえる様、最大にする事」
と言った。
すかさず森さんが、ボリュームを限界まで上げた携帯を僕の前に置く。
全く、プライバシーなんてあったもんじゃない、と僕は半ば諦めの境地で、通話ボタンを押した。
耳に当てては鼓膜が痛いだろうから、携帯を近付けるのではなく、
僕が携帯に近付くために、体をテーブルに寄せる。
「もしもし、古泉です」
「こちら長門有希。応答せよ」
「してるじゃないですか。ご用件をどうぞ」
「今日は何時に帰って来るの?」
「すみません、今、会議…ではなくて、床屋が込んでいまして。終わり次第帰ります」
「そう。晩ご飯は何がいい?」
「あなたにお任せします」
「カレー」
「いや、それはちょっと。三日連続でカレーはキツ……!」
ヤバっ…!!
「そう。待ってる」
プチッ、ツーツーツー……
「……えと、その、あの、これは…」
椅子の上で縮こまる僕に集中する冷やかな目線に、
「今日は何時に帰って来るの?晩ご飯は何がいい?三日連続でカレーはキツい?」
森さんが見る者全てを凍らすような不敵な笑みを浮かべる。
そして、一言。
「説明して貰おうかしら、古泉?」
あはははは、実はですね、
森さん、あなたに言った、この右手のけがは体育の授業中のものではなくてですね、
実はその、長門さ…いえ、長門有希を庇った際に負傷しまして。
いえいえ、庇ったと言いましても、本棚の上から落ちてきたダンボールからです。
その時、その場には涼ハルヒも居まして、
長門有希は長門有希自身が持つ能力を使い、落下物から逃れる事は憚れた訳なのです。
涼宮ハルヒが目撃していましたから。
それを見た僕は、何故でしょうね、詳しくは僕自身解らないのですが、
とにかくダンボールと長門有希の間に割り込んでいました。気付いたら。
そして、その際ダンボールを背中に食らい、そのまま床に倒れたのですが、
床に手を付いたのは良いものの、些か失敗しましてこの通り…
え?そのまま倒れたのなら、長門有希を押し倒す体勢だっただろう?
えー、あー……全く、森さんもお人が悪い。
僕は前ではなく真横に倒れたのです。なので別に押し倒してなど…
何故、と言われましても、横に倒れたものは横に倒れたのです…
………。
………すみません嘘つきました……
…ええと、長門有希が尻餅を付いた状態で、そこに僕が屈むようにして庇ったので、
その際、倒れてきたパイプ椅子に、右手首を、あの、直撃、され、ました…
………。
……はい、ダサいですね、目茶苦茶ダサいですよね…
鈍臭いくせにフェミニスト気取ってんじゃねーよ…?
ちが、フェミニストじゃな…
ダサい、とろい、鈍臭いの三拍子…?
…うう……
え…新川さん?なんですか…?
男が泣いていいのは、両親が死んだ時とタンスの角に小指をぶつけた時だけだ…?
…そうですね、そうですよね。
…ん?あれ?と言うことは、
新川さん、あなたはタンスの角に小指をぶつけた時、泣いていらっしゃるのですか…?
わあああすみません!!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい落ち着いて下さい座って下さいっ!!
………。
はい、脱線しました、すみません。
それで、長門有希は僕に責任感を持った様で、
僕の右手が負傷してからここ三日、夕食を…
えと、彼女が彼女自身の家で調理を全て済ませ、僕の家に運んでいます。
はい、それだけです。それだけですよ。
………。
え?あ、あはは、嫌ですね。そんな、この真冬に汗なんてかく訳が…
あ……
…この部屋が暖房効き過ぎなのではないのでしょうか?
…一七度?
……ほら、最近エルニーニョ現象だとか地球温暖化だとか良く言われているではありませんか。
…とにかく、本日僕は床屋に寄ってから帰宅する旨を長門有希に伝えてここに来たので、
彼女は彼女の自宅で待機し、何時に料理を僕の家に運べばいいのか、それを先程の電話で聞いた訳なのです。
ご理解、して頂けましたでしょうか?

途中、何度も脱線しながらも、
長ったらしい説明を終え、僕はびくびくしながら会議室を見渡した。
「……えーと…」
「古泉」
「はっ、はいっ!なんでしょう!」
「何か、機関や君にとって不利益になるような事を長門有希にされたかね?」
はいっされましたー!!
鼻に栗を突っ込まれそうになったり、クラスで脱がされかけたり、
家に不法侵入されたり、完璧に脱がされたり、風呂に突っ込まれたり、
朝の五時に叩き起こされたり、愛人呼ばわりされたり、マル秘ノートを持ち出されたり、
尚且つそれをデパート全フロアに放送されたり、その他諸々!!
機関と言うか、もっぱら僕個人に不利益なことばかりが山のように!!
「いいえ。今の所は特に何も」
「そうか…」
少しの間考え込む素振りをが見られた。
「ならば、こちらからは何も能動的な行動は取らずとも良いだろう…」
森さんが発言したいのか、うずうずしている。
が、
「弱味を握られない様に気をつける事。もし弱点を突かれたら早急に報告せよ」
勇気イツキ伝説とか!日記とか!ポエムとか!もうばっちり握られちゃってます!!
機関と言うか、もっぱら僕個人の弱点が山のように!!
「はい、承知致しました」

「ただいま戻りましたー…」
くたくたになりながら、マンションの部屋の扉を開ける。
つ、疲れた…
「お帰りなさい」
ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら、エプロンを装備した長門さんがお出迎えをしてくれた。
「遅かった」
「はは…予想以上に店が込んでまして…」
長門さんはお玉を持った右手とは反対の左手で、僕の髪を撫でた。
「髪、直った」
「はい」
「髭も」
「はい」
ちょっと気恥ずかしい。
長門さんが僕の頭から手を離したので、靴を脱いで部屋に上がろうとする。
「待って。やる事がある」
「?」
家に着いたと言うのに、靴も脱がずにすることとは?
僕が長門さんに言われた通り、玄関に突っ立っていると、
「ご飯にする?お風呂にする?それとも」
……待て待て待て待て待って下さいっ!
「わ・た・し?」
新婚ジョーク!?
しかも、何ともご丁寧なことに「わ・た・し」の部分で長門さんは人差し指を左右に振り、
おまけに「?」の所で人差し指をそのまま唇に持って行っていらっしゃる。
大袈裟でもなんでもなく僕は、がくー、と脱力して玄関にへたり込んだ。

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