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 二学期がもうすぐ終業式を迎えるある日の午後。
ちょっと買いたい物があるからコンビニに行く、と言って席を立った古泉は、扉の前でいつもの微笑をたたえ、SOS団アジトを振り返った。
「何か用がございましたらどうぞ」
「古泉くん、あたし雪見だいふくお願いね!」
早速ハルヒが勢い良く挙手して言った。
お前には遠慮と言うものが…ま、古泉だしいっか。
「古泉、ジャンプ頼む。料金後払いでな」
「あのー、古泉くん、ハンドクリームを…あればでいいです。
よろしくお願いします」
朝比奈さんが律義に古泉に頭を下げるのを見つめていると、長門がいつの間にやら古泉の真横に移動していた。
「私も、行く」
ん?古泉に頼んだらどうだ?そのために奴も皆の注文を聞いているんだろうし。
俺がそう思っていると、ハルヒも同じように思ったんだろうな、
「有希、古泉くんに頼んだら?
遠慮してるんだったら大丈夫よ、古泉くんは私が見込んだSOS団の副団長だもん。
断るなんてキョンみたいなケチ臭いことしないわよ!」
市内探索の度に全員分の昼食代やら茶代やらを払っている俺のどこがケチ臭いと言うんだハルヒさんよ。
「いいの?」
古泉、今すぐ俺と代われ。
長門にそうやって上目使いに尋ねられるんならパシリくらい安いもんだ。
「勿論です。どうぞご遠慮なく」
コートを手に取った古泉が長門に爽やかスマイルで促すと、長門は
「昼、少ない日用。羽付き」
とだけ呟いた。

「ゆーきぃー!!!」
長門の一言で外の気温よりも冷たくなった空気の中、真っ先に動いたのはハルヒだった。
「な、長門さん!」
少し出遅れた朝比奈さんも、ハルヒと同じく長門に駆け寄った。
ふたりして長門を抱き寄せ、顔に掛かるふたり分の胸の圧力に身動きできずにいる、なんとも羨ましい状態の長門を古泉から引き離す。
その古泉はと言うと、あまりのことに爽やかスマイルのままその場に固まり、このクソ寒いのに汗を一筋流すなどと高度な技をやってのけていた。
ハルヒと朝比奈さんは俺と古泉から最も離れた場所、つまりハルヒの団長机まで長門を連行して、そこでやっと長門を解放した。
「ゆゆゆ、有希、あなた学校でなったの?」
「なった」
「どうしてあたしに言わないの!?
みくるちゃんでも良いわ、とりあえずそーゆー時は知っている人に持ち合わせがあるかどうか聞くもんなのよ!」
ハルヒの物凄い剣幕に、長門はそうなの?とでも言うように首を傾げ、朝比奈さんはハルヒの言うことにこくこくと頷いていた。
「でも、聞くと言っても、そういうのは男の人に聞いちゃだめです」
そこでハルヒ達は全員が全員、俺と古泉の方を見た。
ハルヒは睨み付け、朝比奈さんまでもが咎めるように。
長門はただ見つめただけだったが、なんだなんだ、ハルヒと朝比奈さんのその目は。
俺も古泉も誰にも何もしてないぞ。
何故か冷や汗が垂れてきた。
「それに、古泉くんと有希が一緒にコンビニ行って、よ。
有希がそれ持ってレジに並んだら、古泉くんがなんてリアクションしたら良いか解らなくて困るでしょ!」
「べ、別に何もリアクションなんてしませんが…」
うん、こればっかりは俺も古泉がハルヒに反論するのも無理ないと思うぞ。
俺だって見て見ぬフリをするさ。
「解ってくれましたか?長門さん」
朝比奈さんがまるで姉のように長門に問い掛け、長門がこくっと頷いた。いいね、和む。
「って、悠長にしてる場合じゃないわ!」
ハルヒは自分の鞄に手を突っ込んで小さいポーチを取り出すと、長門の手を掴んで扉までずかずか歩いて行った。
古泉が扉の前から退くと、何故かハルヒは奴を一瞥してから勢い良く扉を開けて部室から出て行った。朝比奈さんもそれに続く。
そりゃな、あんな会話をした後に男共とひとりで残るのは気が引けるだろうよ。
ぱたん、と扉が閉められる音を聞いてから、盛大な溜息をついて俺は机に突っ伏っした。はー、やれやれ、一気に疲れた。
古泉が壁にもたれ掛かって、そのままずるずると床にへたり込む。
こりゃいつものオーバーリアクションじゃなくて素っぽいな。当然か。
「それにしても、驚きました」
「ああ、長門にもそーゆー…」
「近頃のコンビニって何でも置いてあるんですね」
そっちかよ。今時パンツだって売られてるぞ。
いや、そうやってツッコむ気力さえ今の俺にはもう無いさ。


終わり。


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